TPPが突きつける、著作権のモンスター化と同人・ユーザー系政治団体の不在という問題


■著作権って防衛的に運用されるべきじゃない?

著作権は、そういう「まぁ、常識的な範囲内で使う分には……わかるよね?」という法文化されない暗黙のマナーとルールを前提として機能している。そういう社会で「いや、それはもう勘弁ならない」という事案が出てきたときに、切り札として出される印籠であり、錦の御旗が著作権なのだ。だから、闇雲に振りかざすようなものではなく、「目に余るもの」(たとえばスキャンレーションや作品そのもののP2Pなどでの流出)を排除するための防衛的権利として運用され続けて欲しいというのが、僕の考えだ。

これは、権利者側というよりも、ユーザー側がよく覚えておいて欲しいと思っている。というのは、少なくとも僕がこれまでにお会いした、いっしょに仕事をした出版社、作家といった人たちは、おおむねみんなそういうふうに著作権をとらえているからだ(まぁ、もちろん例外はあると思うけど、傾向として)。つまり、「常識的な範囲で遊ぶ分には文句は言いたくない」と思っている。だけど、ユーザーが「同人誌ってOKですか?」と聞いてきたら「NGです」といわざるを得ないのだ。「OK」といったら、さすがに看過できないレベルの商売が出てきたときに、何もいえなくなってしまうから。

正直いって、藪をつついて蛇を出すみたいなパターンで、正しいけれど、誰も得をしない、幸福にならない結末にいたってしまうパターンが、著作権関連にはある。「空気を読む」みたいな部分で守っていったほうがいい側面が、確実にあるのだ。

■著作権のモンスター化を止めるのは誰か?

というわけで、著作権の非親告罪化については、今のところ一ユーザーとして反対の立場を取っているのだけれども、けっこう厄介な問題が残っているなとも思わされている。

肌感覚として、著作権の非親告罪化については反対という人の声がチラホラ上がっており、たぶん「けっこう厄介だ」と思われているんじゃないかというところがある。だけど、これに対して何らかの公式声明を出している団体というのが、実はなかなか見つからないのだ。

出版、コンテンツ関係の問題については、まず出版社なり、出版業界団体が反対声明を出すケースがある。2010年の青少年健全育成条例問題のときには、角川書店、小学館、集英社、講談社などが参加するコミック10社会が公式声明を出したりしていた。

のだけれども、今回の件については今のところ僕のリサーチした範囲で公式声明を出しているところが見当たらない(これ、お手数ですが、あったらお教えください)。

出ていない声明に関して、内情を勝手に推測するのはどうかとは思うのだが、まぁ、これ、確かに権利者サイドである出版社は、内部的に思うところがあっても、そうそう声明として公式見解を示しづらいということは予想される。特にTPP関連の著作権問題では、「著作権保護期間の20年延長」という項目もあったりして、出版社的には真っ正面から争うところでなくなってしまっている可能性がある。とりあえず、今回の件については政治的に微妙な立場なんだろうなと。

で、もうひとつ、こうした政治問題で公式声明を出して戦う組織としては、作家サイドの社団法人日本漫画家協会という組織があるのだが、こちらも現時点では沈黙。

そして、ダイレクトに二次創作を直撃する同人界隈はというと、組織的交渉に出てくる代表団体がなかなかない。コミックマーケット準備会なんかも内向きに統制を取り、問題を調整する力は働いているものの、外向きに政治力を発していく団体という側面は強くない。危機感はあっても、政治的交渉に力を発揮できる団体が意外と見当たらない。

結果的に、この問題について、今のところ可視化されている部分では、赤松健先生などが孤軍奮闘しているような状況だ。

もちろんユーザーの反対の機運というのは大事だし、現状上がりつつある。だけど、機運というのは悪い言い方をすれば機運に過ぎない。政治的圧力を持つ団体や人間がいないとき、機運はまるで力を持てないことが多い。端的にいえば、誰がその機運を署名としてまとめ、提出し、意見交渉をするかという問題だ。

TPPに関していえば、著作権関係は見送られる可能性ももちろんある。ただ、TPPが可視化した最大の問題は、著作権関連に関して戦ってくれるだろうという団体がなかなかいないということだ。

著作権関連は、たぶん今後も肥大化方向に進んでいく。TPPを凌いでも、その先には必ずまた同じような問題が出てくるだろう。そのとき、また我々は政治的声明を出し、交渉を行う団体を持っていなかったら、遅かれ早かれ、著作権はモンスター化していくだろう。

現在のところ、特定非営利活動法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン、thinkC(著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム)、MIAU(一般社団法人インターネットユーザー協会)の3団体が共同で運営する「TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム」がパブリックコメントを出したりと、活動を行っている。とりあえず、団体としてはこのあたりに期待するしかないだろう。

いずれにせよ、著作権関連に関しては、2つの問題がある。1つは正しいけれど誰も得しないモンスター化問題。そして、もうひとつは有事に権利者側でない方向から適正化に向かって動ける団体、組織の不足だ。

TPP問題は、著作権周りにあるこの2つの問題を浮き彫りにしていると思うのだ。

記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。2012年の年間マンガ購入数が1000冊を超えてました。読むナビさんでオススメ紹介を始めてます。Twitterアカウントは@frog88

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