市場殺し? マンガ読みの育ての親? 新古書店をめぐりマンガクラスタが議論


15日夜、Twitterのマンガ・書店クラスタで古書店の話題が盛り上がった。興味深い指摘も多く、本来ならばTLトピックスとして扱うところなのだが、今回の話題に関しては当サイトの編集長である筆者自身がこの話題の発端近くにおり、TLでの話題として扱うことに疑問があるため、今回はコラムの形でまとめておこうと思う。

■「作家に印税が入らない」という新古書店への反発

今回の話の発端は、新古書店を含む古書店に対する風当たりの強さだ。こと流通を含む出版関係者は(ポジショントーク的な部分もあるだろうが)、新古書店を快く思っていない人が多い。

当然といえば当然だ。一般の書店で本を買った場合は作家、出版社に利益が還元される。これがあるからこそ作家も出版社も本を作り続けられる。だが、古書店で売れた場合は、作家にも出版社にも利益が還元されることはない。

特に新古書店と呼ばれる最近の大型古書店では、リリースされたばかりの新刊が即店頭に並ぶことも多く、関係者にとっては頭痛の種になっているというわけだ。

単に書店や出版社が困窮するだけで、ユーザーにとっては新しい作品を安く買えるのだからいいじゃないか、と思う人もいるかもしれないが、作家も出版社も流通も霞を食べて生きているわけではない。利益が出なければ、作家は生活できなくなり、結果専業で描くことができなくなる。出版社は売れない本を出さなくなる。流通ルートは減り、気軽に本を買う環境が失われる。めぐりめぐって、読者は作品を読めなくなってしまう。最終的に読者の不利益にもなるのだ。

だから、新刊はできれば古書店でなく新刊書店で買って欲しいというのは、出版社のみならず、僕のような読者としても思っているところではある。

■新古書店が育てたマンガ読みも多い?

だが、一方でこうした「新古書店憎し」の風潮に対する疑問もある。現実問題として、新刊書店だけでは読みたい作品を揃えることはできないのだ。

現在日本で刊行されるマンガの新刊は年間約1万点弱といわれている。日本最大級の書店であるジュンク堂池袋本店の蔵書数が、店舗全体(つまり雑誌や書籍を含めて)で150万冊、80万タイトルだという。マンガだけでどれくらいの量があるかはわからないが、10フロア構成なので単純に割れば1フロアあたり15万冊、8万タイトルということになる。つまり、巨大書店でも新刊を10年分もきっちり並べたら溢れてしまうということだ。

もちろん、絶版(品切れ重版未定)になってしまう作品も多い。絶版作品というとものすごく古い作品のイメージだが、ほんの数年で絶版になる作品は多い。たとえば、絶版マンガを集めてWeb上で公開しているJコミがオープンしたとき話題になったが、完結からわずか10年ほどの大ヒット作「ラブひな」(赤松健)がすでに絶版なのだ。

これが地方だと特に際立つ。大型書店は少なく、新刊ですら入ってこないものも多い。一時期話題になった作品も、ブームが去ると店頭から消えてしまう。高校生なんかがちょっとさかのぼってマンガを読みあさろうと思っても、簡単に手に入らないのだ。

大型新古書店には、こうした過去のヒット作が大量にストックされていることが多い。大ヒットした作品は、読んだあと古書店に売る人も多くなる。結果として、新古書店はちょっと前のヒット作の品揃えがもっともよい店舗になっている、というのが地方出身の僕の実感だ。

マンガを大量に読む人は、当たり前だが、マンガを大量に読んだ経験がないと生まれない。読みたいという情熱が生まれたときに十分に読めなければ、いつの間にか離れていって、“読まない人”になる。オタクになるには、それだけ“読める”環境が必要なのだ。そして、経験的にいって、そうやって育ったヘビーユーザー(オタクといってもいい)の多くは、最終的に新刊を書店で買うようになる。新刊書店が安定して一番早くマンガを買えるからだ。

新古書店を含む古書店問題に対して、そんな意図のつぶやきをしたのが15日だ。これに対して、さまざまな反応があった。

意外だったのは、思っていたよりも共感の声があったこと。一般ユーザーはともかく、書店関係者からは「そうはいっても」という声が多いかと思っていたのだが、マンガ好きでならす書店員からも「中古書店に育てられたという実感がある」という旨のつぶやきが寄せられていた。ラインナップの面もそうだが、経済的に限界のある中高生時代、中古書店にマンガ読みとしての素地を育ててもらったという人はやはり多いようだ。

■万引きと新古書店の不幸な関係

一方で「新刊を扱う書店と絶版倉庫としての古書店」という理想論的な棲み分けは、うまくいっていないという現実もある。

今回寄せられたつぶやきのなかには、「近くにオープンした大型新古書店のオープン時に確認しに行ったら、3分の1近く自店舗(新刊書店)とラインナップがかぶっていた」という旨の報告もあった。こうなってくると、新刊書店にとって新古書店は「安売りできる競合店」になる。

ご存知のように、国内の本は原則として値引きができない。いわゆる再販制度という仕組みのためだ。この再販制度についてもいろいろと議論はあるのだが、ともあれ、どうやっても価格競争では太刀打ちできない新刊書店にとって、同じ商品を安く売っている店の存在は脅威で、その店舗では実際売り上げにも影響したようだ。

さらに、結果として良心的な価格で絶版書籍を豊富に扱っていた古書店が撤退に追い込まれたという。市場原理とはいえ、結果的にマンガ・本好きにとっていい環境が崩れてしまうことは、一ファンとして不幸なことだと感じる。誰が悪いというわけでなく、不幸である、と。

また、Twitter上ではないが、書店からの声としてよく耳にする、万引きとの関係という問題もある。高価な売れ筋作品が書店でまとめて万引きされたあと、近くの古書店に流れていることがあるというのだ。事実上、古書店が万引き商品の換金所として機能してしまっているケースだ。

今回聞いた話では、万引き対策のために書店の商品展開が萎縮してしまっている店舗もあるという。大量に万引きされることを防ぐため、1冊ずつしか店頭に並べないようにしたり、商品カードなどとレジで交換する方式にしたりという形式だ。実際に売り上げにどう影響するかはわからないが、従来の書店好きとしては書店の魅力が減退してしまうな、と感じてしまう。これも明確に因果関係があるといえるかわからないが、高価買い取りを行う古書店があるエリアで見られている手法だという。

これに関しても、古書店側に非があるとはいえない。万引き自体は小売りの宿命的課題で、必ずしも古書店が引き金ではないという声も多く、必要以上に古書店の問題として扱うことはできない。だが、これも新刊書店と古書店の不幸な関係の一例といえるだろう。

■自ら買い取りを行う新刊書店も

こうした新刊書店と古書店をめぐる問題は、現時点で解決法やベターな答えは見つかっていない。ある意味では永遠に答えのない、原理的対立なのかもしれない。

ただ、いくつかの新たな動きも報告された。そのひとつが、買い取り販売を行う書店の登場。たとえば、文教堂などは古書の買い取りを行い、「eco-book」というサイトでネット販売するという取り組みをしている。文教堂の買い取り開始は、2009年頃にはネットで報告されており、つい最近というわけでもないようだ。また、こうした事業展開行う書店はほかにもいくつか報告があった。

もうひとつは、電子書籍でまとめ買いをするようになったという声。長期連載作品は新刊書店でまとめ買いしようとしても、揃っていない場合も少なくない。電子書籍なら、リリースさえされていれば、いつでもまとめ買いができるというわけだ。規格やラインナップなど、まだ黎明期といった感は否めない電子書籍だが、作品によっては書店・古書店よりも便利にまとめ買いできる媒体であり、今後より存在感を増してくる可能性は高い。

ユーザーにとって、そしておそらく市場全体にとって、古書店は書店同様重要な流通経路だ。明確な結論や解法はいまだ見えないが、マンガというメディアにとって少しでも幸福な関係が築かれていってほしいと、改めて感じるTLだった。

記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。Twitterアカウントは@frog88

【お詫びと訂正】
記事初出時、記者プロフィールにて「『坂道のアポロン』10巻を紛失した(=自宅内で見つからない)」旨の記載がありましたが、2012年8月18日現在、同作は9巻までしか刊行されておらず、紛失したのでなくもともと存在しておりませんでした。お詫びして訂正いたします。

No comments yet.

この記事にコメントする

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)