Amazon売り切れ、“難民”発生。でも重版なし――“余ってる”のに品薄になるマンガの流通ジレンマ


■商品であり、販促ツールでもある本

なら、もっと均等に近くなるように配ればいいとも思えるが、なかなかそうもいかない。本という商品は、たぶんちょっと特殊なものだからだ。

たとえば、洗剤やお菓子であれば、店頭以外のメディアで大々的な広告を打つモデルが一般的だ。が、刊行点数(商品の種類)が多い出版では、そういうモデルはほとんどなく、多くの人が店頭でその存在を知る。つまり、本は商品であると同時に、それ自体が販促物に近い側面も持っているのだ。

均等に近い配本にして、数冊程度ずつ入荷しても、書店で大きなスペースは確保できない。1冊や2冊だと、最初から棚刺し(表紙を見せるように置く平積みでなく、本棚にささって背表紙しか見えない状態)になってしまい、ほとんど目に止まらない状態になる。

こうなると1冊入って1冊残るというパターンが多くなる。その店舗では実売0%だ。2冊入った書店で1冊売れても50%、3冊入って2冊売れてようやく60%オーバー。

一般に本を全国の書店に行き渡らせるには1万部前後必要になるといわれている。最初から数十万部、数百万部と印刷されるヒット作はいいが、多くの作品はそんなに刷られることはない。少部数の作品になれば、初版数千部というのもザラだ。そもそもすべての書店に1冊ずつ配ることもできないわけだ。この状態で少部数ずつ配本するのはむしろ自殺行為に近い。結果、一部の書店に本が集中し、「あるのに手に入らない」市中在庫問題が起こったりする。

■“難民”になったらどうすればいい?

では、我々読者がきちんと欲しい作品にリーチするにはどうすればいいだろう?

流通システムの改善というのはもちろん課題としてあり、たとえばどこに何冊あるかがいつでもわかるデータベースを作るというような案が出されることがある。が、現実問題として街の本屋さんから大手チェーンまでを横断するシステムを一括で導入するのは、なかなか難しい部分がある。配本数の最適化も何十年と試行錯誤を繰り返しながら進んできたのが今の状態で、今後も少しずつ変わっていくしかないだろう。

読者ができることとして一番確実な方法のひとつは予約だ。欲しい本は事前に書店で予約して、確保しておく。

とはいえ、いつどんな作品が出るかを詳しく把握している人はそう多くないだろう。発売日以後であれば、書店の在庫検索を使うのも手っ取り早い。ジュンク堂や紀伊國屋書店など、オンラインである程度の在庫状況を知ることができる書店もある。

近隣にそういった書店がない場合は、e-honを使う手もある。これは取次のトーハンが運営しているサイトで、注文すると近くの書店に本が届き、受け取ることができるというもので、いわば、書店での注文を自分でできるサービスだ。在庫さえあれば2日以内に出荷され、書店で受け取るなら配送料もゼロ。利用している書店で注文ができないときは、こちらで在庫を探してみるのも手だ。

マンガ、書籍の流通は複雑で難しく、著者、出版社、取次、読者などの間で批判や対立が起こることも多い。仕組みの抱えるジレンマを理解することで、全体が協力して改善に向かうこともできるのではないだろうか。

【08/23追記】
取次が運営しているサイトとして、ほかに日販のHonyaClubというサイトがあるという情報をいただきました。
直販、書店への取り寄せ、 在庫確認などができるようですので、参考までに追記させていただきます。

記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。寝室のクーラーが壊れたので、寝るときは窓を開けていたんですが、おかげで寝室側のマンガが湿気にやられつつあります。Twitterアカウントは@frog88

7 Comments for Amazon売り切れ、“難民”発生。でも重版なし――“余ってる”のに品薄になるマンガの流通ジレンマ

この記事にコメントする

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)