「マゾもの、SM系マンガなんですよ」というと、どういうイメージを持つだろうか? 好き嫌いはともかくとして、とりあえずかなり変態入った話を想像するんじゃないかと思う。
実際、ヘタレマゾ・モリタを主人公にした「生きろ!モリタ」と、その続編「待て!モリタ」(ともに松本藍)も、変態入ってるのは間違いない。何しろモリタ、冷たい目線が好きとかそういうレベルでなく、相手もいない(彼女いない歴26年=年齢)のに、ラバースーツだの拘束具だのムチだのを買いそろえてるのだ。こう書いた時点で、どん引きという人もいると思う。
だが、本作は実は甘ったるい。ある意味キャッキャウフフ系といってもいい。SMなのに? そう、SMだからこそ、甘ったるいのだ。
ドMのモリタが出会い系サイトを通じて出会ったのは、何と女子高生。しかも、天然ドSの。モリタを虐げるだけ虐げて、気まぐれに去っていく。連絡も唐突。悶々とするモリタが意を決して、アワアワしながら電話をかけたりすれば、「きしょくわるいな!!」と一刀両断(実際気持ち悪いんだけど)。モリタは振り回されまくるわけだ。
だけど、2人の関係はラブラブとはほど遠いのに、読み味は軽く、明るい。
モリタというキャラクターのコメディっぽさももちろんある。だが、本質的に本作が明るいイチャイチャ系に見えるのは、ヘタレのモリタがヘタレのまま承認される物語だからだ。
当たり前だけど、誰かに好かれようと思ったら(特に異性に)、自分のいいところをアピールしていかなくてはならない。かっこいいですよ、かわいいですよ、マジメですよ、頭がいいですよ……人によってアプローチはいろいろあるだろう。
だが、モリタはただ見出されている。女子高生・彩ちゃんは、無職でモテない、ヘタレなモリタを、ヘタレなまま受け入れる。ヘタレさゆえにといってもいい。
その関係は甘い。「あるがままの自分を受け入れて欲しい」という、ある意味人間関係における究極の願いが叶えられる物語だからだ。
気まぐれな彩ちゃんは、いつか気まぐれに飽きて、モリタを捨てるかもしれない。少なくともモリタにはそういう恐怖があるだろう。関係だって、思うがままにはちっとも進まない。愛してるとか好きだよとか、そんな言葉も全然ない。
でもきっと、たぶん多くの人がモリタを羨ましいと思うはずだ。このSMには、セクシャルな興奮でなく、そういう甘さがある。
(「生きろ!モリタ」「待て!モリタ」はそれぞれ1巻完結のシリーズです)
記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。この時期になると毎年スピッツの「夏が終わる」を聞きます。仕事のご相談とか承っていますので、お問い合わせかTwitterでお気軽にどうぞ。Twitterアカウントは@frog88。
関連リンク
『生きろ!モリタ』特設サイト
待て!モリタ – 太田出版
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