インシュリンと間違えてシャブを打つ! 老人ヤクザのオフビートな青春(?)――「ジジゴク」(沖田次雄)


金はないけど時間だけはたっぷりあって、友達と日々くだらない話をしたり、バカな企みをしては失敗し、まるでそんな日々が永遠に続くように思いながら過ごす……。バカバカしいのにどこかセンチメンタルで、ちっとも冴えない日々なのに輝かしい、そんな風景が日本の青春劇のひとつのイメージです。

まあ、「そんなだったよねー」とあるあるトークのつもりで話をしたら、「いや、もっと普通に楽しかったけど。飲み会とか合コンとか彼女とか」って真顔で返されまして、僕のなかで何かがガラガラと音を立てて崩れ落ちていくような気持ちになったりもしたんですけれども、それはそれとして、物語における心象風景としてそんな青春像があるのは確かです。気をしっかり持て。

そういう青春劇に、幸か不幸か心を惹かれてしまうという人にオススメしたいのが「ジジゴク」(沖田次雄)です。

これ、どんな話かというとすっかり老年期を迎えたおじいちゃんヤクザの日常を描いた作品です。「青春劇だっていってるのに、なんで老人モノなんだよ!」というツッコミを入れられているかと思うのですが、これがですね、ビックリするほど冴えない系オフビート青春モノのマインドを感じるんですよ。

もういい年もいい年のおじいちゃんたち、しかもヤクザなのに、いつも金に困っていてどこか間抜けな悪巧みをしていたり、連れ合いはろくでもないけど憎めない連中ばかりで、先輩ならぬ組の上役に無茶な頼まれごとをして四苦八苦したり……。遊びがゲートボールだったり、何かというと糖尿とか病気の話になったりと、シルバーらしいネタは多いのですが、登場人物たちの行動原理や性格は、実のところちょっとヤンチャでおバカな若者とそんなに変わらなかったりします。「入院がイヤだから代わりに糖尿になって治療受けてくれ」とか、大人の発想じゃないですよ。そういう愛おしいバカッぷりが、この作品にはあるんですね。

でも、実際のシルバー層がどうなのかはわかりませんが、老年期というのは実は物語としては青春期に近い部分があるのかもしれません。仕事の一線からは退いていて時間に余裕はあるけど、かといって「ジジゴク」のキャラクターたちはヤクザだから年金も貰えずお金には困っていて、ある種の「永遠の日常」感を生きているわけですから。さすがにいつも女に惑わされるってことはないですが、その代わり孫にはめっぽう弱くて振り回されたりしていますしね。

そういう冴えない日々のなかで、自分のスジや正しさを貫いたり、うまく貫けなかったりする彼らの姿は、結局のところ20代、30代のジレンマだったり感傷だったりと同じなのかもしれない。そんなことを思わされる作品です。

記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。Twitterアカウントは@frog88

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