シリアスな恋愛に疲れたら、笑わせながらキュンとくる恋物語はいかが?――「純情ドロップ」(中原アヤ)


少女マンガを読みたくなるときってどんなときでしょう? もちろんひと口に少女マンガといっても多種多様ですから、そんなもんに決まった答えはないんですけど、それでもやっぱり「キュンキュンしたい」とか「ドキドキしたい」とか、あるいは「泣きたい」とか、そういう作品が少女マンガの王道だと思います。

今回取り上げる「純情ドロップ」の作者・中原アヤも「キュンキュン」のイメージが強い人です。なにしろ代表作「ラブ・コン」は「キュン死に」というフレーズを生み出した作品ですから。いわば「キュン死に」の第一人者といえます。「純情ドロップ」の帯でも、「最凶(?)男子のギャップにドキドキMAX!?」とやっぱり胸キュン・ドキドキみたいな部分が押されております。

でもですね、中原作品って、実はキュンキュンとかドキドキ以上に、別の部分に魅力があると思うんです。

もちろんキュンキュンします。本作でヒロインの相手役を務める赤居くんは、帯にも銘打たれているように、とんでもなく怖い顔で、みんなに不良だと思われてるんだけど、実は本人はちっとも怖くない、優しい人。「不良が雨の日に捨て猫を拾ってた」みたいな優しさじゃないですよ? 根っからの善人なんです。全然凶暴じゃない。顔以外は。そんな赤居くんの意外ないい人ぶり、純情さには思わず30過ぎのオッサンもキュンと来ます。

だけど、じゃあ、終始ドキドキの展開かというと、むしろ読み味はすごくほのぼの、ライトなんです。登場人物は誰ひとりとしてウジウジしておらず、ちょっと脳天気だったりマイペースすぎるんじゃないかってくらいカラッと明るいんですよね。さらに、随所にギャグテイストを織り込んでおり、いわゆる「いいシーン」でも笑わせるんです。「笑って泣ける」みたいな作品はたくさんありますが、「笑いながらキュンとする」という作品は滅多にありませんよ。

恋愛物語っていうのはある種の緊張感に満ちたものが多いものです。好きな人にフラれたらこの世の終わりみたいな気持ちになったりもしますから、大丈夫なのかとか、切ないとか、そういうピリッとしたシリアスな作風になるわけです。

もちろんそれはそれで重要な要素なんですが、「純情ドロップ」ではそういう緊張感よりも「誰かを好きになる嬉しさ」が全編ににじんでいるんですね。不安や切なさよりも、喜びや温かい気持ちを明るく楽しく見せてくれるわけです。

キュンとしつつもほんわかと優しいという持ち味こそ中原作品の強烈な魅力であり、「純情ドロップ」はその魅力がギュッと濃縮された1冊だと思います。1巻完結と短いですし、「恋愛ものは重すぎて……」と敬遠してる人にも手にとってほしい作品です。

記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。Twitterアカウントは@frog88

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