マンガにおいて「中二病」というのは、すごく不安定なフレーズだったりします。
「中二病マンガ」という場合、おおむね「中二病っぽい展開のマンガ」と「中二病のキャラクターが登場するマンガ」に分かれます。
後者はすでに自虐系コメディとしてワンジャンルを確立していますよね。前者の場合、現在の「中二病」というフレーズの性質上どうしても揶揄する意味で使われがちですが、「邪気眼」ネタに代表されるような秘められた力を持つ主人公というのも、少年マンガのひとつの王道だったりします。
「中二病」の本質は自意識と現実のギャップですので、「邪気眼」も現実に持ち込むとイタいですが、きちんと世界観が構築されたマンガのなかであれば「邪気眼」の存在こそ現実であり、それを信じない現実での常識人は愚民になります。現実世界にいれば極めて常識人であろうミスターサタンが、「ドラゴンボール」ではピエロ役になるのが象徴的でしょうか。
中二病がファンタジーの王道になるか、コメディになるかはその作品の現実のありように左右されます。「中二病のキャラクターが登場するマンガ」を安心してコメディとして楽しめるのも、舞台が「今私たちのいる普通の世界」であることが提示されているからで、ファンタジー世界でやると笑っていいのか、のめり込むべきかわからなくなってしまいますよね。現実のありようをどうとでも設定できるフィクションでは、中二病はファンタジーにもコメディにも転べるフレーズというわけです。
そんな中二病の間隙を突いたのがジャンプ改連載の「オッドアイ少年」(銅☆萬福)です。本作は、「中二病すぎる学園エンタメ!!」と1巻の帯に打たれているとおり、目の色が左右で異なるオッドアイを持っていることで「自分は選ばれし者だ」と思い込んでいる中学2年生・乙畑仁が主人公という、典型的なコメディとしての中二病作品。学校に現れた怪物から颯爽と女子を救う妄想とか、スプーン曲げの修行とかね! キャー、乙畑くん素敵だし、直視できない!!(痛々しくて) という感じで、乙畑くんはじめ、中学2年生の妄想と空回りっぷりを存分に楽しませてくれます。
なのですが、読み進めていくと……あれ? ちょっと待って、霊って何?
そう、まさかのガチ能力者登場です。中二病学園コメディを読んでいると思ったら、急に学園ファンタジーが混ざってきたでござるの巻。これは予想外。
もちろんここから急に乙畑くんが真の能力に目覚めて冒険活劇に変わったりはしません。むしろ加速度的に乙畑くんやクラスメイトの中二病っぽさが濃密になっていきますが、同時に乙畑くんの周りで本当は何が起こっているのかわからなくなり、物語はにわかにミステリーめいてきます。
そして、何よりすごいのは、本物の能力者の登場によって乙畑くんの空回りぶりがより際だっていくことです。何しろ本物の能力者がいると、乙畑くんは「現実でよくいる、ちょっぴりイタい中学生」でなく、「バトルもの少年マンガの勘違いしたモブ」になってしまうわけですから。これはイタい。耐えられない。読みながら何度か悶絶したレベルです。
脇を固める中二病キャラの腹黒感といい、笑えるやら赤面するやら怖いやら……。ファンタジーありなのに、普通の中二病コメディ以上に、思春期の学校のリアリティを感させてくれます。この僕を戦慄させる銅☆萬福……真の能力に覚醒した選ばれし者に違いありません。
記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。Twitterアカウントは@frog88。
関連リンク
オッドアイ少年/銅☆萬福 | 集英社 ジャンプ改/JUMPX 公式サイト
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