ボーイッシュで女子にモテる“女子校の王子様”というのは、もう少女マンガの定番中の定番なわけですが、実をいうと個人的にはあまりハマッたことのないジャンルだったりするんですよね。女の子が極めて異性的に女の子に憧れるというのが、男の僕には少しコミットしにくい感情なのかもしれないな、と半ばこのジャンルに関しては諦めていたのですが、いや、まさか。こんなかわいい王子様に出会うとは。
いや、もう「愛しの可愛い子ちゃん」(サトーユキエ)の主役・十郎澤潮ちゃんがかわいくてかわいくて、今身悶えております。
カバーでももろに「王子!」という感じで描かれていて、普段の服装も割と男性的な感じの潮ちゃんですが、中身はというと実はめちゃくちゃキュートな純情乙女。いちいち見せる照れた顔とかもうね、もうね!!!(シュポポー!!!)
とまぁ、僕のシュポシュポした気持ちを書き綴り続けてもいいんですが(シュポー!)、それを読んだところで誰も本作に興味を持ってくれないと思うので、少し真面目に内容について紹介していきましょう。
本作第1巻には読み切りで掲載された0話に当たるお話と、その後連載化されてからの物語が収録されています。このうち、0話は潮自身の物語になっていますが、連載となってからの分は、潮に憧れる、恋とも友情ともとれない気持ちをよせる女の子たちを中心にしたオムニバス連作になっています。
帯裏にも描かれているように、潮には彼氏がいますし、潮をめぐる女の子たちもそれぞれ男でなく女の子が好きというわけではありません。男性キャラもバリバリ出てきますしね。潮に対する気持ちにしても、恋と呼ぶには少し違う、微妙なところであり、いわゆる“百合”と呼ぶと若干誤解を招くかもしれません。ですが、同時に「愛しの可愛い子ちゃん」は極めて少女マンガらしい、少女という季節の象徴としての百合物語にもなっていると思うのです。
吉野朔実の「恋愛的瞬間」という作品に、「恋愛的友情」という話があります。これは男同士の友情関係をめぐる話で、そのなかで友情の定義についてこう書かれています。
「友情は 相思相愛でありながら 抵抗によって達成出来ない疑似恋愛関係」。
ここでいう抵抗とは、もちろん性別も、そうでないものも含んでいます。こう提示された上で、物語の最後、登場人物のハルタは無二の男友達である司を見送りながら、モノローグで語ります。
「たぶん 俺達は ずっと お互いに一番だった」
「いっしょに遊んで 一番楽しい相手だった」
「あの瞬間 女の子が間に入った時 俺達は お互いが一番でなくなることを知ったんだ」
このエピソードは、そのまま男同士の友情の話として読んでも非常に面白いのですが、より恋愛的にとらえるなら、BL的というよりむしろ百合的な関係への示唆を含んでいます。もちろん大人になってからも変わらぬものとして描かれることも多いですが、いつか消えてしまう思春期の特別な関係というテーマが、百合には確実あります。
「愛しの可愛い子ちゃん」に描かれる淡い百合的関係、感情は、まさに異性の登場によってやがて失われる「実らないことを約束された果実」です。潮に惹かれる女の子たちは、みなどこかでそれが少女時代の幻であることを予感しています。だから、時間が止まることを祈るし、誰にも気付かれないように口づけをする。
潮をはじめとした女の子のかわいさだけでなく、そういう儚いセンチメンタルが詰まっている本作は、正統派の少女マンガであり、少女マンガ的百合の王道だと思うわけです。
記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。Twitterアカウントは@frog88。
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