「恋スル古事記」(近藤ようこ)
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こうの史代の「ぼおるぺん古事記」に、サメマチオの枕草子超訳「春はあけぼの 月もなう 空もなお」など、今年は日本の古典をモチーフにした作品が次々と刊行された年だった。そんななか、恋をテーマに古事記をコミカライズしたのが本作だ。
ただし、「恋スル」といっても、本書の描く男女の物語は、ロマンチックさや恋の甘さを強調したものではない。むしろ、その筆致は淡々としているといっていい。だが、近藤ようこの諸作品同様、さらりとした描写ゆえに、そこで描かれる嫉妬やいさかいといった人の業が、「誰もが持つ当然のもの」のように浮き上がってくる。そして、過剰でない感情描写は、登場人物たちの心境を、読み手に再度考えさせてくれる。古典新訳、マンガ化というと、「わかりやすくする」という部分に眼目が置かれやすいが、本作は逆に、古事記という物語の複雑な機微を浮き彫りにしている。
【ここにも注目!】
黄泉比良坂でイザナギを追う、イザナミが描かれたシーンでは、恐ろしい姿であると同時に、小さく涙を流す描写が。全体に淡々として見えるが、こうした感情表現は実に豊かでお見事。
記事:ネルヤ編集部
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