電子書籍の半額セールは本当にマンガ好きにとって福音なのか? KADOKAWAセールのインパクトと電書市場の未来像


マンガについてのあれやこれやを、編集長がふんわり語るこのコラム。今回は年末だし、いい加減今年の電子書籍について書き残したことを書いておこうか、というような話を。

■KADOKAWAの半額セールが電子書籍市場とユーザーに残したインパクト

「今週の」とかついてる割に、毎週出る気配が全くないこのコラムなのだけれども、気がつくと12月も暮れに近づいてしまい、いい加減今年を振り返っておかないといけないタイミングになってしまった。そんなわけで、だいぶ久しぶりにコラムでも書こうかと腰を上げたわけだ。

「1年を振り返るタイミング」といっておいて何なのだが、じゃあ、総括的に何か振り返っておこうと思っているかというと、そういうわけでもない。今年語り残したと思っている電子書籍について、2013年のうちに書いておこうと思っただけだ。

電子書籍については、正直なところ、買う買うといいながら未だにタブレットも買っていない僕がしゃしゃり出ていって大きな顔をして話すような分野ではない。このジャンルにはだいぶ前から定点観測を続けている鷹野凌さんやまつもとあつしさんのような人たちがいるので、未だに紙に軸足を置いている僕なんかの話を聞くよりも、そっちの原稿でも読んだ方がよっぽど現状はわかるだろう。

ただ、逆にいうと、そういうロートルな僕でさえ、そろそろいい加減電子書籍についてまじめに考えておかないとなぁと、本格的に思い始めたのが今年、2013年だったということだ。

で、そんななかでも、特にインパクトが大きかったのが、10月のKADOKAWAの大規模フェアだったと思う。

角川グループが全部まとめてKADOKAWAになった10月1日、1日限定でKADOKAWA作品の電子書籍ほぼすべてが半額になるというセールが行われた。電子書籍の時限セールは、これまでにもよく行われていたが、系列出版社が実に9社もあった大規模版元が、一斉にセールを行う大規模なものは、おそらく日本では初だったんじゃないかと思う。マンガだけでも相当な数の作品が、下手するとブックオフなどの新古書店で買うよりも安い価格で販売されたというインパクトは、かなり大きかった。きわめて狭い範囲ではあるけれど、自分のTwitterのTLでも「ついまとめ買いしてしまった」といっている人がかなり目についた。

何しろ、日本の場合、新刊(古書ではないという意味で)が値引きされるというのは、制度上、基本的にはありえないので、実際安売りを経験したことのある人もあまり多くないだろう。もうちょっといえば、ある種の本・マンガ好きという人たちは、あまり本の値段というものを意識していなかったりする。僕自身も「ざっくりこれくらい」という価格イメージはあっても、具体的にどれが何百何十円かというのは全然知らないのだ。たばこの値段が10円上がればあんなにうんざりするのに、コミックスの値段が400円なのか、500円なのか、700円なのかは全然気にしない。そういう世界だった。

KADOKAWAのセールは、単純に大規模セールで「電子書籍ってこんな嬉しいことがあるんだ!」というのを印象づけ、電子を買う動機付けをしたというのが、最大のインパクトだったとは思う。と同時に、僕はこの大規模セールで、ほとんど初めてマンガの値段について意識したという衝撃があった。「値段によって買うかどうか考える」というアクションは、(数千円の豪華本はともかくとして)基本的に自分の行動原理にあまりなかったのだ。

■KADOKAWAから講談社、少年画報社……大規模半額・無料セールがラッシュになった年末

そういう意味でいうと、KADOKAWAのセールは「値段によって買う」というごく当たり前の市場原理を出版の世界に持ち込んだというインパクトがあったと思う。まぁ、電子書籍が事実上再販制度の外側で展開されている以上、当然の帰結といえるかもしれない。

これが実際にどれくらいの成果を上げたかというのは、残念ながら数字的なデータがないのでわからないのだけど、反響を見る限りそれなりの成功は収めたのではないかと思う。そして、これを受けてなのか、もともと予定していたのかはわからないが、最近では電子書籍の大規模セールが。

今だとちょうど講談社が「冬☆電書2014」の一環という形なのか、楽天koboで50%引きKindle storeで50%還元の大キャンペーンを実施中。ともに1万冊超が対象の大規模セールだ。12月17日からスタートして、20日の9時59分までと期間もそれなりに長い。

さらに、本日19日の21時からは電子書籍ストア・BookLive!で少年画報社の作品482冊が48時間限定で無料になるフェアなんていうのも始まる。作品単位で無料公開というのはこれまでもあったが、版元単位である程度の母数をドンと出すのは、僕の知る限りではなかなか珍しい。

もうちょっときちんと定点観測している人だと、「前々からセールの流れで電書が進んできた」という認識なのかもしれないけれど、僕くらいの周辺ユーザー層だと、ここにきていよいよ本格的にセール攻勢が加速してきた、という印象だ。

ともあれ、たぶんこの流れは止まらず、電子書籍という未だ「本好き」にとって異文化である新しいメディアは、たぶん価格というインセンティブを前面に出すことで市場をつくっていくことになるだろう。何しろ斬新だから。

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