「尋ネ人探偵」の名前で連載され、その後改題して講談社から出版された衿沢世衣子の「ちづかマップ」が、新シリーズになって帰ってきた。現在小学館から刊行されている「ちづかマップ」(衿沢世衣子)は、タイトルは講談社版と同じだが、その後月刊flowersで連載されたエピソードを収録した完全新作だ。
帯で「街再発見コミック」と銘打たれているように、本作は女子高生・ちづかが古地図とともに東京をはじめとした街を散策する物語。同じ東京でも、大正、明治、江戸時代など、さまざまな時代の地図と照らし合わせながら歩くことで、歴史とともに街の風景を再発見できるというわけだ。
ただ、こう説明しただけでは本作の魅力はたぶんわからない。歴史とともに街を紹介するなんて、観光ガイドでは定番の手法だ。それをマンガにしたところで、何が新しいのか、と思えてしまうだろう。
だが、これがワクワクするのだ。観光案内を見ても「ふ~ん」としか思わなくても、ちづかたちの歩いた風景は、実際に見てみたくなる、不思議な魅力がある。
ちづかをはじめとしたキャラクターがおり、物語として街をめぐっているという点も、このワクワク感の源泉だろう。しかし、たぶんそれ以上に重要なのは、そこで目にする風景が絵であることだ。
「ちづかマップ」では、ちづかたちが歩く街の風景が、とても丁寧に描かれている。橋の石畳、レンガの質感、親柱の崩れ具合までしっかり描いてある。だが、同時に写実的、写真的かというとそうではない。資料から単に起こした背景とは確実に違う、手で描かれたデフォルメ感、マンガらしさがある絵になっている。
絵は、特に多くの日本のマンガの絵は写実的であることを目的にしていない。ある意味では、写真などに比べてマンガ的なデフォルメ、ウソがたくさん含まれている。
そして、そのウソがあるからこそ、「ちづかマップ」の風景は輝いているのだと思う。
写真は確かにリアルだ。ただ街を歩くのであれば、Googleストリートビューなどを見ながら歩いた方が迷わずに済むだろう。だけど、そのリアルさゆえに想像力は膨らみにくい。絵という“フィクション”は、フィクションであるがゆえに想像力をかき立てる。たった一枚の絵は、モノクロの写真資料よりも鮮やかに何十年、何百年も前の景色を思い描かせてくれる力がある。それが、想像力が入り込む余地があるある意味不完全な、絵というメディアの力なのだ。
「ちづかマップ」は、そういう絵の力を最大限に引き出している。だから、ちづかの散策は、今現在の東京散策でありながら、同時に写真では飛べない、何十年、何百年前の東京へのタイムトラベルにもなり得ているのだ。
(このレビューは第1巻時点のものです)
記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。実家のある長野県諏訪市が最近「すわひめ」って萌えキャラ作ってて驚きました。しかも、意外とかわいい。Twitterアカウントは@frog88。
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