“物語”を放棄したバカマンガ界の革命的作品――「絶品! らーめん娘」(友木一良)


バカマンガというジャンルが僕は好きだ。一抹の意味すら拒絶するように、もはや使命感に燃えているとしか思えないレベルで、大の大人がひたすらバカであることを追求している姿には、一種に爽やかさすら感じる。だから、当サイトのレビューでは、たびたびこのバカマンガというジャンルに当たる作品を(作者に病院へ行くことをおすすめしつつ)紹介している。

そして、一般誌のバカマンガを語る上で、今年どうしても避けて通れないのが、この「絶品! らーめん娘」(友木一良)だ。すでにブログ界隈では、連載開始時から話題になっており、今さらのこのことレビューするまでもないといえばない。

だが、それでも本作をレビューせずに今年を終えるのは、「マンガの話をしよう」と銘打ったサイトの名折れだ。なぜなら、この作品は、本編よりも、それについて語る人の言葉のほうが充実しているからだ。もっとダイレクトにいうと、本作にはほとんど中身と呼ぶべきものがない。

だって、あらすじを紹介すれば、「ラーメン屋でザー○ンを出してしまった」に尽きるのだ。最近のエピソードこそ、多少のキャラクター性や、変わった展開が出てきているものの、最初期の数話は完全にこれだけだ。ラーメン屋にいったら、裸エプロンの店員が出てきて、なんやかんやあって、なし崩し的にヌかれる。

「それはもう純然たるエロマンガじゃないか」と思われるかもしれないが、そういうわけでもない。エロというジャンルでは、オッパイやお尻、局部に修正が入れられる慣習になっているので、「裸体=エロ」と思われがちだが、物語におけるエロのキモは、実のところ裸体ではない。裸体にいたる、プロセスとシチュエーション、文脈こそが物語(特に非実写メディア)におけるエロのキモだ。

つまり、「なんやかんやあって」の「なんやかんや」の部分に心血が注がれているから、最終的な行為にエロスが生まれ、エロマンガになる。「なんやかんや」の部分がシュールになると、一気に裸体はギャグになる。たとえば、「課長 島耕作」で、突然全裸でやってきた美熟女が「抱きなさい」と言い出すシーンは、文脈上ギリギリ“ラッキーエロ”に入るが、その場面だけ持ってくると完全にギャグだ。何を言っているのかわからない。

これを利用したのが「バカエロ」というジャンルで、あり得ないシチュエーションと思考から、強引にエロに持っていくことで、エロを笑いに変えている。何を言っているのか分からなければわからないほど、エロはギャグになる。

で、それを突き詰めたのが本作だ。たとえば3巻収録の第22話。ラーメン屋に入ると、いきなり「もっと牛の気持ちになって!!」といいながら姉が妹の乳を搾っているシーンから始まる。正直いって、今テキストに起こしていても、自分が何をいっているのかよくわからない。だが、事実だ。「もっと牛の気持ちに」なることを姉が妹に強要しているシーンから始まる。頭が割れそうだ。一応、そこにいたる理由は説明されるのだが、それは「牛乳を買い忘れたから、調達するため」というもの。物事というのは、普通理由を説明されれば、多少なりとも複雑な現実を理解する糸口が見えてくるものだが、理由を説明された結果、事態がややこしくなっている。

さて、こうして概要を説明すると、あまりにくだらなくて途方に暮れてしまうのだが、不思議なことに、僕はこの作品を最新刊の第3巻まできちんと揃えている。結局らーめんを食べに来てザー○ンを出すだけだと分かっているにも関わらず、3冊しっかり読んでしまっている。何なら、こうしてレビューまで書いてオススメしている。

ハッキリいうと、「絶品! らーめん娘」はすでに「バカエロ」の域を超えている作品だ。「バカ」にはバカなりの物語と文脈があるが、本作はどちらかといえば「一見物語のように見える怪文書」に近い。何らかの辻褄というものが、ほとんど存在していない。

だが、そのことが逆に、人に作品について語らせる力になっている。意味が分からないがゆえに、なんとかして何かを見出そうという気持ちにさせるとともに、その意味のわからなさにいつの間にかハマッてしまうのだ。

そういう意味で、本作はバカマンガ界の革命といってもいい。そして、このレビューを読んで少しでも興味を持ってしまったら、たぶんいつの間にかあなたは単行本を揃えてしまっているはずだ。

(このレビューは第3巻時点のものです)

記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。いつの間にか完全に「らーめん娘」の術中にはまっている。Twitterアカウントは@frog88

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