もしもニワカ歴史オタクが戦国武将を前世に持つ生徒が集まる学園コメディを読んだら――「放課後関ヶ原」(阿部川キネコ)


歴史好きっていう人種は、何かと歴史モノ作品にうるさい。ちょっと有名人を描けば、やれ「時代考証的に衣装がおかしい」とか「史実に伝わる○○の体格はもっとガチムチのはずだ」とか言い出し、合戦シーンや城攻めが出てくれば「当時の部隊構成としては……」「永禄年間の城なのに切込み接の石垣とかwwww」とか言い出して、周囲にウンザリした顔をされるのだ。まことタチの悪い連中なわけでございます、歴史オタク(特にニワカ)は。

何か歴史オタクに恨みでもあるのかという感じだけれど、そうではない。だって、僕自身がそういうニワカ歴史オタクなのだから。ああ、学研の歴史群像のムック(いわゆる赤本)とか読んでしたり顔してるような高校生だったよ!

そういう過激派ニワカがちょっとした歴史ifモノとか歴史ファンタジー系を読むとどうなるかというと、まぁ、一言でいうとアレルギー反応が出て死ぬ。体中の穴という穴から、ネットで調べた戦国知識とか噴出しながら死ぬ。僕を含むニワカ歴史オタクの死因の7割は歴史ifモノだと思ってる。僕もいつかはKOEI歴史ゲー信者らしく、真田昌幸超絶イケメン化とか発見して死ぬんだ、きっと。

とまぁ、明らかに言い過ぎたし、「織田信奈の野望」のコミカライズとか普通に楽しんでる僕が言うのは完全に狂ってるんだけれども、歴史モノっていうのは人気ジャンルだけに、そういうアレルギー反応も出やすいものなのだ。

だけれども、そんなアレルギーがどうでもよくなる作品もある。「放課後関ヶ原」(阿部川キネコ)がそうだ。

本作は、前世が戦国武将だった生徒たちが集まる関ヶ原学園を舞台にして、外国の血を引いた真田幸村やら、グラスハート過ぎてヤバい小早川秀秋やら、生涯不犯を誓ってるのにドスケベな上杉謙信やらが登場する学園コメd……あれ、ちょっと待って、そこ、ページ閉じないで!!

まぁ、卒倒する気持ちもわかる。これだけ歴史オタクがうるさいって話をしておいて、出てくるのが歴史オタの鬼門・歴史トンデモ系設定の作品なのだ。しかも、これまた鬼門の少女誌での歴史モノ。男歴史オタが読み進む気も失せるというものだ。しかし、この作品の魅力はそれだけではない。そう、本作は歴史系である以上に、パロディたっぷりのバカ系ギャグなのだ。

1巻の頃から、掲載誌・月刊プリンセスの読者を唐突に「プリジェンヌ」と呼び始めてみたり、ヤンキーキャラの武田信玄に「ヤンチャン(ヤングチャンピオン)に行けーっ」とツッコんでみたり、秋田書店ネタが非常に多かったが、2巻では1話丸ごと「ドカベン」ネタを引っ張ったりとますますやりたい放題のバカパロディが加速している。第9話とか、扉ページが「弱虫ペダル」ならぬ、「政宗ペダル」に。ページを開いた瞬間、作品どころか、プリンセスの方向性はこれで大丈夫なんだろうかと、しばらく考え込んでしまったからね。

もうここまではじけられてしまったら、「時代考証的にですね(キリッ」とかいう方がバカだ。どうせツッコむなら「ドカベンのパロディやるなら柔道編からやれよ!!!」とか見当違いなキレ方をした方がまだ知的だ。

歴史モノはとにかく読者側のアクの強さに作品が押されてしまうことがままあるが、結局のところ、物語にとって大事なのは正確であることよりも、突き抜けた面白さがあることなのだ。もちろん、史実をしっかり踏まえることも、魅力を作るための重要な手法のひとつだ。だけど、突き抜けたバカであることでも、「面白い」は作れるのだ。「放課後関ヶ原」は、ファンタジー系とか歴史モノってことで敬遠するのはもったいない、いいバカっぷりに満ちている。

(このレビューは2巻までのものです)

記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。自宅でマンガを紛失する、そんな生活を送っている。Twitterアカウントは@frog88

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