悪女モノだと聞いて読み始めた。「蜜ノ味」(元町夏央)は、市橋ミツカという女性の中学時代から結婚までを、さまざまな男たちの視点から切り取った連作作品だ。そこで描かれるミツカは、たしかに奔放だし、セルフィッシュであることに悪びれないから、「周りをメチャクチャにしないと生きられないのは病気だよ」と登場人物の一人、喜多ユウキくんにも指摘されちゃう。でもね、ある意味ユウキくんは間違ってると思うんだよな。
ミツカはたしかに性悪に見えなくはないけれど、よく読むと「周りが勝手にメチャクチャになってるだけ」な部分がある(この点はおそらく、作者本来の優しさが邪魔をしたせいだと思われる)。だからコレ、悪女モノではないと勝手に断定しちゃいたい。
ただし、ミツカは二股なんて当たり前というか、それがDNAに刻まれているかのように自然に振る舞うから、“常識人”である周囲と食い違う。でも、本人にはそのこと自体への疑問もなく、「え、ダメなの?」とも思わない。もちろん、打算でも処世術でもない。この素直であっけらかんとした感じが、悪女というより実にすがすがしいほどだ。ニンフォマニアでもないしね。
いいじゃないですか、こういう生き方。こういう作品。
ここ最近の音楽の歌詞に閉口している私は、本作のようなタイプの知的創作物が出てくることは大歓迎だ。だって、どの歌も表面的には周囲への愛や感謝を伝えるフリをしながら、根っこの部分では「自分かわいい」だけ。でなけりゃ、小学校の道徳の教科書みたいな常套句を繰り返してみたり……。そんなもん、人前に出していいレベルじゃない。
市橋ミツカは、どうしたって道徳の教科書には出てこないキャラだ。だけど、いいとか悪いとかじゃなく、こういうキャラがどこかにいないと、世の中おもしろくない。だからこそ、こういう作品の存在は貴重なのだ。
マリリン・モンローことノーマ・ジーンは、自分の胸や尻ばかりを見られることに悩み抜いたらしい。そして、マリリン・モンローであることを演じきれず、人気の絶頂で非業の死を遂げちゃう(自殺説とか暗殺説とか、いろいろあるよね?)わけだけど、ミツカならその程度のことでは悩まないだろう。というわけで、私は市橋ミツカを日本のマリリン・モンローに認定したいと思う次第。
もっともっとハジけたミツカを主演にした続編を読みたい。
(本作は1巻完結です)
記事:浮田キメラ
幼少時よりのマンガ狂で、
「上手にホラを吹いてくれる作品」が好み。
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