「歌うたいの黒うさぎ」(石井まゆみ)
おとぎ話度:
無邪気さ:
癒し:
ごくごく平凡な、ある意味ではパッとしない、メイド喫茶で働く26歳の主人公・森永が、ある日偶然の出来事からどセレブのお坊ちゃんたちと知り合いになり、屋敷に出入りし、本物のメイドとしてスカウトされるようになる……。「歌うたいの黒うさぎ」(石井まゆみ)は、おとぎ話のような物語だ。そして、あらすじを追うと、シンデレラストーリーのようにも見える。だが、読後感はもっと無邪気だ。秘密だらけのお屋敷を探検する喜び、想像もしないようなお金持ちの奇想天外な生活。どれもがいい意味で現実離れしていて、テーマパークのように現実でないことを(うすうす)わかった上で心地よく夢を見させてくれる。
そして、何より単なるシンデレラと違うのは、森永が見る夢が、ある意味では自分の夢ではないという点だ。過去作「キャリアこぎつね きんのもり」シリーズもそうだが、石井まゆみ作品ではしばしば降って湧いたように子どもとの出会いがやってくる。子どもというのは、普通の他人以上にコントロールの効かない他者であり、厄介なタスクだ。だけど、子どもは自分のための夢を見続けてきた人間に、誰かに必要とされ、そのために生きるという新しい夢を見させてくれる。誰かの無邪気な夢のために生きる、そういうきれいごとのように響くものを、ワンダフルに楽しく見せてくれる。この作品が“大人のための”おとぎ話なのは、自分の夢でなく、他人の夢を見せてくれるからなのだ。
【ここにも注目!】
本作ではお金持ちのお坊ちゃん・叶夢(かなむ)という子どもが出てくるが、同時にその父など、彼をめぐる男たちもまた、実は子ども的。現実的で厳しい女性たちとは対照的に、どこか脳天気で抜けている男たちは、みな無邪気な子どもなのだ。
(このレビューは第2巻時点のものです)
記事:ネルヤ編集部
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