Appleに関していうと、この3つのハードルがすでにかなり低くなっている。すでに述べたように、端末は他サービスに比べればかなりの普及率があり、iTunesですでに多くの課金登録者を抱えている。そして、海外ですでに実績があるAppleの場合、とりあえずそう簡単に撤退しないだろうという安心感もある。電子書籍サービスとしてはかなり取っつきやすいだろう。
で、実際僕もサービス自体には期待感を持っているし、「いい加減使ってみよう」と思っているのだけど、一方で「でも、Appleにシェアを取られたくないかな」という思いもある。
ご存知のとおり、Appleという会社は、iPhoneなどのiOS向けアプリで、エロなどに比較的厳しい対応を取ってきた背景がある。それ自体の是非については、一企業のジャッジなのでとやかくいいづらい部分ではあるのだが、反面、iBookstoreが巨大なシェアを握った場合、作品自体にダイレクトに影響してくることになる。
電子書籍の売り上げが大きくなり、iBookstoreがそのなかで大きなシェアを持ったとしたら、当然出版社はそこでリリースできない作品は作らなくなるだろう。結果的に、シェアを持つ企業の自主規制は、マンガ市場全体への表現規制になる可能性がある。
マンガの表現規制はこれまで行政サイドとの戦いで、「出す・出さない」という部分は基本的に出版社サイドがジャッジし、責任を持ってきた。だが、とりわけ電子書籍サービスでは、流通サイドが表現問題について責任や影響を強めることが予想されるのだ。
我々は出版社に関しては、ある種の信頼を寄せている。絶対の信頼ではないにせよ、彼らは「表現のために戦う」という一定の信頼を寄せている。だけど、少なくとも僕に関していえば、現時点で電子書籍サービスの運営サイドに対して、リスクを取ってでも規制や反発と戦ってくれるという信頼を抱いてはいない。もちろんそういう信念を持っている会社もあるだろうけれど、とりあえず現時点で僕とサービス運営会社の間にまだ信頼関係はない。
で、Appleと僕の信頼関係というのは今のところ、ハッキリいってしまうと「ろくでもない」状態なわけだ。あれだけうるさかったAppleが、何か問題が起こったときに、表現を守るために戦ってくれるだろうか? 実際にどうなるかはわからないけれど、そういう不安が不安として僕のなかにはある。だから、シェアを握られるのは不安なのだ。
ただ、そういう前提から見ると、iBookstoreは意外と「お!」と思わされる部分があった。妄想でいうならば、オープン時点でのラインナップ、構成からは一種の意思表明のようなものを感じさせるものだった。
日本版のiBookstoreは、現時点で講談社、集英社、角川書店系列などが参加しており、マンガの超大手どころとしては小学館がいない程度という感じだ。この陣容から考えても、遅かれ早かれ小学館も参入してくるのではないかと思う。
日本の場合、出版全体におけるマンガの存在感が大きいので、ストア上でもアメリカ版などよりフィーチャーされているが、このジャンルわけが面白い。「アクション」「ギャグ」「SF」「ラブコメディ」などに混ざって、かなり目立つところに「同性愛」というジャンルがあるのだ。
マンガのカテゴリーとして「同性愛」というのは耳慣れない感じだが、要はBLと百合、現時点では大半がBLという感じだ。僕はBLに造詣が深くないため、現在店頭に並んでいるタイトルがどの程度「濃い」のか、セクシャルな表現が多いのかまではわからないが、ともあれ、ジャンルとしてしっかりプッシュしていこうという意志は感じる。
このカテゴリー以外でも、「いけない! ルナ先生」(上村純子)や「電影少女」(桂正和)など、往年の「ちょっとエッチ」でならした作品が入っていたり、とりあえずスタートアップの段階では、「エロに厳しいといわれてますが、iBookstoreはやりますよ」という宣言のようなものが感じられる。「ルナ先生」とか、作品説明で思いっきり「青少年の股間を直撃した」とか書かれてるし。まぁ、あくまで勝手に感じてるだけなんだけど。
そんなわけで、個人的にはすごく信頼しているわけではないにせよ、スタートアップとしては悪くないのかな、と思ったりするiBookstoreのローンチだったので、今後もぜひ頑張って欲しいなと思っていたりする。あと、いい加減今年はタブレットを買って、電書デビューしようと。
記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。2012年の年間マンガ購入数が1000冊を超えてました。読むナビさんでオススメ紹介を始めてます。Twitterアカウントは@frog88。
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