家族という宿題をめぐる女の歳時記――「そして、晴れになる」(天堂きりん)


家族は「〆切のない宿題」に似ている。たいていの人にとって、「家族」は人生で一番最初の日常だ。当たり前のようにそこにあり、自分が幼年期、思春期とどんどん変化していっても、四六時中一緒にいる家族というものの変化には気付きにくい。だから、普段、家族というものについて、改まって考える機会があまりない。

そして、親の老いや結婚が迫ってきて、初めて家族と向き合うことになる。そういうものがやってくることは誰もが知っているのに、明確な期限がないから、ついまだ先のことだと思い続けてしまうのだ。

「そして、晴れになる」(天堂きりん)は、家族を考える時期を迎えた女性たちを描く連作オムニバスシリーズだ。女ばかりの一家で、結婚という“次の家族”を考えるべき時期になったアラサーの娘たちはもちろん、家族と自分の人生を振り返る年齢に入った母と叔母もしっかり描き、さながら女の歳時記といった内容になっている。

結婚直前に婚約者が自分の姉に心変わりしたことを思い返す母、中学時代の淡い恋に再会する長女、アイドルの追っかけを続けていることをアラサーの次女。それぞれが向き合う問題はバラバラだ。だが、そのどれもが先送りしていた家族と自分の人生という宿題に取りかかったり、答え合わせをしたりする物語になっている。

それぞれの宿題への回答は、ハリウッド映画のように、運命的で美しい花丸の模範解答ではない。けれど、だからこそ、本作は同じように“宿題”を抱える世代にとって、実感があり、そして勇気を与えてくれる。今まさに宿題に取りかかっている人や、これから取りかかる人にオススメしたい1冊だ。

(このレビューは第1巻時点のものです)

記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。最近、ヘッドホンを替えました。あと、タバコを軽いのに変えたりもしました。Twitterアカウントは@frog88

関連リンク
そして、晴れになる/1| オフィスユーコミックス|BOOKNAVI|集英社

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