この安定した王道スポ根に耽溺せよ――ポンチョ(立沢克美)


どー考えたって結末は読めるのに、最後まで楽しく鑑賞できるタイプの作品がある。映画なら、かの「007」が代表格に当たる。何でもできちゃう無敵のジェームズ・ボンド君が活躍し、どこかの巨悪を叩き潰す物語である。途中、「んなアホな」なシーンがいくら連発しようとも、礼儀正しい観客はツッコミを入れちゃいけないルールに縛られている。ま、たとえば恋愛モノだって、主役の2人が艱難辛苦を乗り越えて最後にはめでたく結ばれるのだから、結末判明ストーリーにカテゴライズしていいわけね。

そういう物語はスポーツモノでも多数存在し、最終的にはその分野の最高峰である大会に優勝! みたいな結末が用意されているのがお決まりだ。ということはトーゼン、それまでの経緯で読者をいかに楽しませるか、がポイントになるわけだ。

映画は100分で終わるが、マンガはそうはいかない。長ければ20巻も30巻も、これでもかのストーリー展開で読ませる義務がある。

本作「ポンチョ」(立沢克美)は、高校野球の物語である。メンバーもろくに集まらない弱小野球部に、ひとクセもふたクセもあるキャラが集まってくる。近所には、全国から野球エリートが集結してくる強豪校がある。さて、雑草軍団はいかにしてエリート軍団に立ち向かうか、というのが2巻までのエピソードである。

王道である。王道をやる作者には重い覚悟が求められる。過去には名だたる傑作が山ほど並んでいるのだから、それらと比較されることも承知の上だ。「アレとかコレとかより、絶対にいいですぜ」な自信がないと絶対に手を出してはいけないのだ。

本作の第1巻のオビには、井上雄彦による「漫画にしか出せないワクワク感がある。この作品にはそれがある」との言葉が贈られている。先に触れた、本作の「絶対にいいですぜ」な部分はまさに、ここで宣言されたワクワク感にほかならない。

本作のワクワク感は極上である。さらに、スポーツマンガにはそれを表現する画力が不可欠だと思うのだが、作者はその点も卓越した力量で見事にクリアしてみせている。安定感と躍動感が両立した、計算されつくした画面には拍手を送るしかない。

主人公のポンチョと、チームメイトである不破が核になる。彼らをはじめとするメンバーの熱さに触れているだけで、マンガを読む幸せにひたれる作品だ。

(このレビューは第2巻までのものです)

記事:浮田キメラ
幼少時よりのマンガ狂で、少年ジャンプ創刊号をリアルタイムで買った経験もある。
「上手にホラを吹いてくれる作品」が好み。

関連リンク
ヤングマガジン|ポンチョ|作品紹介|講談社コミックプラス

No comments yet.

この記事にコメントする

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)