美しくて寂しいこの村の情景、細田守にアニメ化してほしい――「千年万年りんごの子」(田中相)


細田守じゃないかなぁ、と思った。「千年万年りんごの子」(田中相)を映像化するなら、という話だ。

「おおかみこどもの雨と雪」の公開直後にこういうことを書くのは我ながらあまりにも安直だなと思うのだけど、「見てみたい」とパッと浮かんだのは、やっぱり彼なのだ。

「千年万年りんごの子」は、青森のりんご農家に婿入りした青年・雪之丞とその妻・朝日を中心にした物語だ。カバー裏には作中で出てくる林檎の品種“国光”が淘汰されていく歴史が書かれており、そこから推定すると年代的には60年代後半~70年代初頭あたりと思われる。捨て子だった雪之丞は戸惑いながらも朝日の明るさに支えられて、少しずつ大家族の暮らしに入っていくのだが、ある日、彼は村の禁忌を犯してしまい、妻とともに不思議な出来事に巻き込まれることになる。

田舎の大家族で細田守、というイメージもこれまた安直なのだけど、かといってジブリじゃないと思うのだ。

村の禁忌、神様という民俗学的モチーフはジブリ作品も得意とするところだが、「千年万年りんごの子」で描かれる村社会は、温かさ以上に閉塞的でちょっと妖しい暗さがある。捨て子であった雪之丞にも、性格的におとなしいというにはちょっと深すぎる、闇のようなものがある。こういう暗さはちょっとジブリ作品で感じたことがない。

別に細田作品だって、深い闇を抱えているというわけではない。だけど、「サマーウォーズ」や「おおかみこどもの雨と雪」は、田舎出身の僕や周囲の友人を驚かせるほど、圧倒的な田舎のリアリティを持っていた。「千年万年~」が持つ、牧歌的なだけでない田舎の暗さを、細田守なら描けるのではないかと思うのだ。美しくて、暗い、少し寂しいこの作品の田舎の情景を、細田作品ならどう再現するだろうか。想像するだけでちょっと鳥肌が立つ。

そして、何よりヒロイン・朝日の魅力だ。眉間にしわを寄せて見合いの席に登場した朝日は、お上品なお嬢様ではないけれど、少女のように天真爛漫で、同時に世界を悟ったような芯の強さがある。こういうヒロイン、細田守ならきっと活き活きと描き出してくれると思うのだ。

熱心なアニメファンというわけでもないので、「アニメになったら」なんて滅多に考えないのだけど、田中相の描くあまりにも美しい情景と世界は、思わず大画面を空想させる力がある。本当に、映画にでもならないかなぁ、これ。

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千年万年りんごの子(1) (KCx)

千年万年りんごの子(1) (KCx) [書籍]

著者: 田中 相

出版社: 講談社

出版日: 2012-07-06

商品カテゴリ: コミック

ページ数: 168

ISBN: 4063805786


(このレビューは第1巻時点のものです)

記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。何を買ったか自分でもわからなくなって、よくマンガを重複購入してしまう。最近だと「王国の子」(びっけ)をダブらせました。Twitterアカウントは@frog88

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想像系新雑誌「ITAN」|千年万年りんごの子|作品紹介|講談社コミックプラス
0m(田中相公式サイト)

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