コミックスは初動が重要……でも「発売直後に買う」は本当に正しいアクションなのか?


編集長・小林が何となくマンガの話題について考える本コラム。今週は、TLを席巻した「マンガの単行本と初動の問題」について。

■ひとつの作品が“討ち死に”するとき

Twitterではマンガ(もしくは出版物全般)の流通や商業システムに関する話が、定期的に話題になる傾向にあるんだけれど、先週は、「マンガは売り上げの初動が重要」という話が数日間にわたってTLを賑わせていた。

細かな流れや意見については、すでにNAVERまとめやTogetterにまとめられているので割愛するが、今回大きな話題になっていたのは、「マンガの単行本は発売後なるべく早く買ってもらったほうがいい」という話だ。

この話が新鮮に映るのは、一般的にマンガが大ブレイクを迎えるタイミングというのが、発売直後ではないという理由もあるだろう。ゲームやCDの世界では、とにかく初動が重視される。おおむね、発売直後こそが一番売れるタイミングになるためだ。

だが、マンガの単行本は、少しずつ人気が広がっていき、メディアミックスなどを経て大ブレイクするというパターンが、現在の大ヒットの基本だ。で、その頃には連載開始、単行本刊行開始から数年が経過しているのが普通。要するに、刊行開始からブームが形になって見えるようになるまで、かなり時差があるのがマンガなのだ。だから、マンガにとって初動がすごく重要というイメージはあまりないのだろう。

では、なんで初動が需要なのか?

大前提にあるのは、「マンガの単行本でもっとも売れるのは第1巻」ということだ。当たり前だけれど、1巻を読まずに2巻、3巻から作品を読み始める人というのは、多くない。基本的には読もうと思ったらまず1巻を買うわけだ。で、読んだ上で離れていく読者もいるので、累計部数がもっとも高くなるのは、当然第1巻であり、2巻以降は少しずつ減っていくというわけだ。

これは結果的にそうなるという話でもあるのだけれど、部数決定の際にも織り込み済みで進む。だから、単行本の第2巻というのは、1巻の(累計)部数よりも少なく刷るのが普通だ。つまり、何もしなくても2巻というのは1巻より少なくなる。

で、少なくなるとどうなるかというと、店頭から消える。消えるというか、占有スペースが少なくなるので、目にとまりにくくなる。目にとまらなければ売れないので、自然と売れるきっかけが減り、部数はまた減少、徐々に見つけることが困難になり、読者の手元にも届かなくなり……という悪循環に入っていき、最終的に単行本が出なくなるというのが、ひとつのいわゆる「討ち死に」パターンだ。

■「足りない」とはどういうときなのか?

じゃあ、どうなればこの悪循環を断ち切れるのか? 一番わかりやすいのは重版だ。重版で部数が伸びていけば、2巻以降も大きな減少はなくなるし、むしろどんどん発行部数が増えていく。売れるから書店でも目に付きやすい場所に置かれ、手にとってもらえるチャンスも増える。“討ち死に”とは真逆の好循環に入っていけるのだ。

では、重版がかかるときとはどんなときか? これはもちろん「その本が足りない」ときなわけだけど、この「足りない」というのが難しい。

たとえば、10冊の本があって、欲しい人が20人いた場合、店頭在庫は0冊になる。だけど、10冊の本があって、欲しい人が10人ちょうどだった場合も、店頭在庫は0冊になる。

このとき、とりあえずもう10冊刷るというのもひとつの考え方なのだけれど、仮に欲しい人が10人ちょうどだったら、刷った分がまるまる在庫になる。もちろん赤字。ヘタをすると、せっかく10冊売れた分の利益も全部吹き飛んで、赤字になってしまうこともある。実際、売れたからといって重版で刷りすぎて倒産する「重版倒産」なんて言葉もあるくらいで、けっこうこれが笑えない話だったりする。重版というのは意外とリスクが高いのだ。

ともかく、欲しい人が本当は(潜在的に)何人いるかがわかればいいのだけれど、これは当然わからない。だから、この辺は想像していくしかないわけだ。

じゃあ、普通に考えて、どんなパターンなら足りないといえそうか? たとえば、10冊の本が1週間で8冊売れたとなれば、多くの人が「もっと売れるはず」と思うはず。が、これが「3か月かけて8冊売れた」となると、どうか? もちろん途中で売れ行きが急激に伸びたり、書評に取り上げられて盛り上がりができてきたりしていれば話は別なのだけれど、少しずつコツコツと8冊売れたとなると、「ちょうどよかった」可能性が高く感じるだろう。そうなると、重版する必要はあまりなくなってしまう。

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2 Comments for コミックスは初動が重要……でも「発売直後に買う」は本当に正しいアクションなのか?

  • まんが より:

    長い
    ふつうに買えばよい

  • とおりすがり より:

    ある時点の「断面」や「期間」のデータで増刷部数を決めてるみたいな書き方に見えますが
    増刷判断に必要なのは「推移」のデータですよ。
    最初の3ヶ月で1000部→100部→100部売る漫画より
    200部→400部→600部売れる漫画の方が増刷されやすいのです。

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