全3948票の投稿を集計した#俺マン2012のランキングが7日に発表されました。上位陣はまさに2012年の大物タイトルと呼ぶべき作品がずらりと並ぶ結果になりましたが、一方で50位以下のゾーンにも濃い作品がひしめいています。データと偏見を織り交ぜながら、#俺マン2012の集計を行なったネルヤの編集長・小林が、改めて集計結果から注目作家やトレンドを分析します。
さて、Twitterで行なわれた #俺マン2012の集計結果も無事発表が終わった。今年は「俺物語!!」(作画:アルコ/原作:河原和音)と、すでにコミックナタリーの「マンガ秋100」、宝島社の「このマンガがすごい!2013」オンナ編などで第1位を獲得している大物タイトルがトップとなり、上位陣は比較的「ランキング的に順当なタイトルが並んだ」というのが個人的な印象だ。上位に関してザックリいうと「このマンガがすごい!」とフリースタイルの「このマンガを読め!」をミックスしたようなランキングではないだろうか。
とはいえ、ただランキングとして出しただけでは見えてこないポイントも多い。ということで、個人的な思い入れなども含めつつ、改めて俺マン2012、特に50位以下を中心に注目作・注目作家をサルベージしていきたい。
まず注目は有永イネだ。ランキング的には最高位が「さらば、やさしいゆうづる」の37位(16票)だが、実は有永は2012年に「最果てアーケード」(原作:小川洋子)上下巻、「かみのすまうところ。」1巻も上梓。計3作品をリリースしているのだが、そのすべてが200位圏内にランクインしている。
2012年が単行本デビューイヤーでありながら、「かみのすまうところ。」は59位(11票)、「最果てアーケード」は126位(6票)と、「さらば、やさしいゆうづる」と合わせると1人の作家としては30票以上獲得している計算だ。作品数が多かったためにやや票が散ったという可能性を考えると、注目度的にはトップ20、トップ10圏内に入ってきてもおかしくなかった作家だといえるだろう。個人的にも2012年の新鋭作家を語る上で欠かせない作家のひとりだと思っているので、現在連載中の「かみのすまうところ。」を含めて、今年ますます要注目だ。
なお、すごくどうでもいい情報だが、有永イネは、僕の心の中の「2012年Twitterでの発言がやたらと面白かった作家賞」を受賞しているので、「フォローしていなかった」といううっかりなファンはダッシュでフォローするのをオススメする。ときおり「大学時代の友人が仕事で病んでしまい、先日話した時「わたしね、海賊王になる…イネは絵がかけるから、ナミやってもらっていい? Nくんは靴屋だから………靴屋だから…?どうする?とりあえずサンジでいい?」って着実にグランドラインに出る計画立ててて怖かった。」など、心配になりつつも噴いてしまう140文字の異次元殺法を繰り出してくるので注意が必要だ。
複数作品がランクインした新鋭ということでいうと、一昨年「女の穴」で単行本デビューしたばかりのふみふみこも3作品を上梓。59位(11票)に入った「ぼくらのへんたい」、67位(10票)の「さきくさの咲く頃」に加え、ランク外だが集計締め切り間際の12月24日に発売された「そらいろのカニ」にも2票が入っており、作家としての注目度はかなり高い。
また、天堂きりんも200位圏内に「きみが心に棲みついた」(106位/7票)、「そして、晴れになる」(158位/5票)の2作品を送り込んでおり、2012年に躍進した作家といっていいだろう。
活躍が目覚ましかった作家としては、奇才・小路啓之も忘れてはならない。2012年は「ごっこ」「来世であいましょう」の2作品が完結。と同時に、ジャンプ改で連載中の「犯罪王ポポネポ」が刊行開始と、立て続けに単行本が刊行されている。完結した「ごっこ」が32位(17票)にランクインしたのを皮切りに、「犯罪王ポポネポ」も7票獲得で106位に。「来世であいましょう」にも1票入っており、作家としての注目度はランキング順位以上に高いのではないだろうか。
このほか、カレー沢薫も「アンモラル・カスタマイズZ」(45位/14票)、「クレムリン」(158位/5票)に加え、東京都写真美術館の広報誌とコラボした「ニァイズ」にも1票入っているなど、熱烈な支持層を獲得している様子がうかがえる。
俺マンには作品の刊行タイミングなどを含め、企画サイドでは一切のレギュレーションを用意していないが、年間ベストのような企画の場合、やはりその年に刊行開始された新タイトルが強くなる。そんななかでランクインしてくる、1巻刊行から足かけ3年以上が経過した長期連載作は、どれも有名作ばかりだ。8位の「3月のライオン」(羽海野チカ)は2012年にマンガ大賞を受賞、23位の「ちはやふる」(末次由紀)も過去にマンガ大賞、このマンガがすごい!などを獲得し、アニメ化された。37位の「海街diary」(吉田秋生)は「このマンガを読め!2008」で1位、42位の「キングダム」(原泰久)は2012年にアニメ化を経験している。長期連載作で上位に入ってくるのは、こうしたメディアミックス、アワードでの戴冠作品か、完結を迎えた作品がほとんどだ。
そんななかで、3年以上連載されている作品として45位に入ってきたのが「君の天井は僕の床」(鴨居まさね)。個人的にもかなりプッシュし、思い入れが強いこともあるが、大きな賞やメディアミックスを経験しない長期連載作がこの順位に入ってきているのは勢いを感じさせる。
長期連載・未完結でランクインしている作品としては、同作のほかに67位(10票)の「ドリフターズ」(平野耕太)、83位(9票)の「惡の花」(押見修造)、「乱と灰色の世界」(入江亜季)、「ヴィンランド・サガ」(幸村誠)、「乙嫁語り」(森薫)などが続いている。このあたりは一種の鉄板作品といっていいだろう。
1年前に読んだ作品と、つい最近読んだ作品ではどうしても直近で読んだ作品の方が印象深くなってしまうのは仕方ないこと。そのため、やはり募集期間が12月の俺マンでは、11月、12月に発売されたタイトルの名前が上がりやすい傾向にある。
ただ、一方で俺マンの集計期間は12月31日までのため、12月に刊行が開始された作品などは、十分に認知が浸透していない状態で締め切りを迎えるという不利さもある。
そうした背景を踏まえると、126位(6票)に入った「ケンガイ」(大瑛ユキオ)は要注目だ。同作は大瑛の単著としては第1作目に当たる作品だが、第1巻の発売が12月27日と、俺マンの集計締め切り直前。にも関わらず、一気に6票を獲得している。雑誌掲載時からチェックしていた層の投票も多かったのだろうが、いずれにせよ短期間で一定の人気を集めており、2013年の注目作のひとつといっていいだろう。
また、レギュレーションのない俺マンでは単行本未刊行作品にも票が投じられる。2012年にトップ5に食い込んだ「空が灰色だから」(阿部共実)が、俺マン2011の段階ですでに42位にランクインしていることを考えると、未刊行のランクイン作品はチェックしておいて損はないだろう。
#俺マン2012では、投票母数が多かったこともあり、200位圏内には未刊行作品は入ってこなかったが、もちろん未刊行作品にも票は入っている。なかでももっとも票を集めたのが、ビッグコミックスピリッツで連載中の「くーねるまるた」(高尾じんぐ)だ。4票獲得し、202位に入っている。
同作は1月30日に単行本第1巻が発売予定。こちらも直近で話題を集めそうだ。
未刊行作品としてはこのほかに「式の前日」の穂積がスタートさせた連載「さよならソルシエ」などが2票獲得している。
以上、主に50位以下の作品を中心に注目作家などをピックアップした。#俺マン2012から、まだ見ぬ良作に出会うための参考として見ていただければと思う。次回はジャンル、レーベル、出版社などの切り口でランキングを振り返る予定だ。
【お詫びと訂正】
記事初出時、「WxY」(マドカマチコ)を未刊行作品として紹介しておりましたが、11月時点で単行本第1巻が発売済みでした。お詫びして訂正いたします。
記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。モンハン4が発売延期されたので、それまでのつなぎとしてモンハン3Gに戻ってきました(ただし、カートリッジなくしたのでハンターランク1からやり直し)。Twitterアカウントは@frog88。
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