「ギャラリーフェイク」(細野不二彦)や「究極超人あ〜る」(ゆうきまさみ)など、伝説的名作が、特別に復活を遂げる企画、「ヒーローズ・カムバック」がさまざまなところで話題を呼んでいるが、今年最大の“復活”といったら、やはり真っ先に上がるのはこの作品だろう。あの「タッチ」から26年たった明青学園を舞台にしたあだち充の新作「MIX」だ。
何しろ、第1話が掲載されると、掲載誌のゲッサンが売り切れ続出となり、単行本も発売後即重版が決定。「タッチ」の世界が復活することに、多くの人が(おそらく期待だけでなく、不安も込めて)関心を寄せた。
結果的にいうのであれば、そうして生まれた「MIX」は、1巻の段階では懐古的というより、正統派のあだち充作品として成立している。“正統派”というのは、キャラの造形や野球というテーマの話ではない。読み手が何歳であっても、いつでもパンチラに「むふふ」となった青春時代に戻してくれるという意味で、だ。ある意味では「タッチ」世代をそのままあの頃に戻してくれる作品になっている。
だが、本作はそういう青春の復活をもたらす作品であると同時に、青春の終わりをはらんでいる点に特殊さがある。
冒頭に掲げたヒーローズ・カムバックは、文字どおり、基本的に当時のキャラクターたちがそのままカムバックしている企画だ。だからこそ、“懐かしい”という感覚ではあるが、自分の加齢を意識する必要がない。
これに対して、「MIX」は、新たな物語を紡ぐことで、かつてと同じように青春を追体験させてくれる。かつての時代への回顧は基本的に感じさせない。だが、その物語を見るものは、否応なく、かつてそこにあった青春劇を思い出す。それはとりもなおさず、自らの青春時代が過去になったことを思い出させることだ。
永遠の青春を読者にもたらす“いつもの”あだち節でありながら、青春の終焉の匂いが常に漂っている。その不思議な感覚が、「MIX」に鮮やかさを与えている。
(このレビューは第1巻時点のものです)
記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。最近、ヘッドホンを替えました。あと、タバコを軽いのに変えたりもしました。Twitterアカウントは@frog88。
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小学館:コミック 『MIX 1』
小学館コミック -ゲッサンWEB-
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