「勝者のジャンプ、敗者のマガジン」、泣かせるのはやっぱり敗者の遺伝子なのだ——「DAYS」(安田剛士)


「歴史は勝者が作る」というけれど、歴史というのがもっとも古くからある物語であることを考えれば、物語の基本というのは勝者を描くことだともいえる。

実際マンガにおいても、いまだ桁違いの発行部数を誇る週刊少年ジャンプは「友情・努力・勝利」という基本理念を掲げている。特にジャンプの場合は、伝統的に「天才型の勝者」が主人公になっているヒット作が多い。血統であったり、圧倒的な正統派の天才であったり、王者の遺伝子を持った主人公こそ、ジャンプイズムだといっていい。

その観点で見たとき、少年マガジンの遺伝子には敗者の記憶があるといっていい。たとえば、「はじめの一歩」(森川ジョージ)の幕ノ内一歩は、(少なくとも連載開始当初は)弱虫のいじめられっ子だった。古い作品だと「破壊王ノリタカ!」(刃森尊)なんかも、ひょろひょろのノリタカが筋骨隆々の強敵を打ち破っていく。マガジンには、どこかに弱者、敗者の遺伝子があるんだと思う。

「DAYS」(安田剛士)は、そういうマガジンの弱者の遺伝子が強く出た作品だ。スポーツ未経験で、運動のセンスもまるでない主人公・つくしが、一人の天才と出会ったことをきっかけに、高校入学とともにサッカーを始める。ろくに友だちもいない、地味な少年が、強豪校でひたすら必死に戦う姿を描いている。

面白いのは、つくしがあまりうまくならないところだ。つくしは、圧倒的な才能が突然開花するというわけでもなく、運動音痴の素人のままでいる。「走ることしかできないから」という理由から、運動量だけは凄まじいが、運動量によってチームのピンチを自ら救うプレーをするわけでもない。

むしろ、つくしの才能は弱者であること(あるいは「あったこと」)そのものだ。誰からも必要とされた記憶がない、褒められたことも、頼られたことも、必要とされたこともない。そういう少年が、下手くそのままでありながら、その必死さゆえに信頼を寄せられる。「頑張れ」と声援を送られる。その喜びが、つくしを必死にさせ、チームを動かしていく。その喜びと必死さという才能は、強者には決して持ち得ない。弱者、敗者の遺伝子とはそういうことだ。

王者が勝つ物語は、圧倒的に快感がある。爽快で気持ちいい。だけど、敗者、弱者の物語は、弱者であるがゆえに、熱く、泣かせる。悔しいことを知っているから、悲しいことを知っているから、泥臭くてダサい必死さが胸を打つ。だから、今熱くて泣けるスポーツマンガを読むなら、弱者の遺伝子を持った「DAYS」なのだ。

(このレビューは第2巻時点のものです)

記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。2012年はだいたい1000冊ちょっとマンガを買ってました。Twitterアカウントは@frog88

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