正直にいうと、もうジャンプ作品で熱くなることなんてないと思ってたんですね、僕。立派な大人ではないにせよ、さすがに31歳ともなると、少年誌って年じゃないですから。頑張ればかめはめ波打てるようになるんじゃないかとか、風呂場で気をためてみたりしないわけです。自分より強いやつに会ってワクワクしたりする少年の気持ちとかもう全然理解できない。「住民税たけえな!! オラ、ワクワクすっぞ!!」とかいえない。普通に負けて死ぬ。
そんな感じですっかり心の牙が抜けきっている僕は、「友情・努力・勝利」のノリにはもうきっと付いていけないだろうと思ってたんですが、いやいや、そんなことはありませんでした。「ハイキュー!!」(古舘春一)読んで、思わず「うおお!!」って声上げましたから。
週刊少年ジャンプで連載中のバレーマンガである本作「ハイキュー!!」は、一言でいってしまうと王道のスポーツマンガです。もうその一言で紹介を終わりにしてしまってもいいくらい、本当に小細工一切なし。物語の中心となっているのは、162cmとバレー選手としては非常に小柄で、バレー経験も浅いけれど、それを補ってあまりあるスピードと反射神経、そしてバレーへの情熱を持った主人公・日向と、強烈な技術を持っていながらチームプレイに活かせない好敵手・影山。
超人的な特殊能力が出てくるわけでもないし、必殺技が出てくるわけでもありません。概要だけ説明してしまうと、「ふーん」としかいえませんよね。何かすごく尖った設定があるわけじゃないですから。
でも、これが面白い。熱くなるし、泣きそうにもなるんです。1巻の時点ではほとんどまともに試合をやってる話もないのに。
本作の面白さを作っている要因はもちろんひとつではないと思います。スピードや力強さを感じさせる絵や構図もあるし、主人公から脇役にいたるまで丁寧に作られたキャラクターの魅力もある。王道というのは「ベタ」ですから、いろんな要素がきちんと丁寧にできてないと「ありきたり」になっちゃいますから。
それを承知の上で、あえて「ハイキュー!!」の最大の魅力を一つあげるとしたら、「仲間」を非常にうまく描けている部分だと思います。
「仲間」というのは、少年マンガでは頻繁に出てくる言葉ですが、実はすごく特別な関係です。「恋人」とはもちろん、「友だち」とも本質的に違うし、そうした関係では「仲間」がいないことの悲しみを埋め合わせることはできません。
「恋人」や「友だち」というのは、基本的に自分や相手に好意や関心が向かっている関係です。これに対して、「仲間」というのは、相手と同じところに目的や気持ちが向かっている状態のことなんですね。ちょっと重いフレーズでいえば「同志」に近いでしょう。
人は誰からも関心を寄せられないことで強烈に孤独を感じます。しかし、自分が情熱を注ぐもの、夢や目標を分かち合える相手がいない孤独は、それとは全く別のものです。同じ理想を思い描く人がいない孤独は、単なる好意では埋められません。逆にいえば、敵同士であっても同じ理想を掲げる相手であれば、それは一種の「仲間」といえます。
1巻の時点では試合というスポーツマンガ本来の山場をほとんど使っていない「ハイキュー!!」が、それでも読者を惹きつけ、胸を熱くさせるのは、スポーツマンガである以前にそういう「仲間」を巡る物語になっているからです。
物語の中心になる日向と影山は、「友だち」かといえば疑問が残る。バレーという共通項がなければ口もきかなかったんじゃないかと思うくらいです。しかし、バレーに関しては同じところを見ている「仲間」であり、決して埋められなかった孤独をいやしてくれる唯一無二の相手といってもいいでしょう。スポーツマンガの「努力」「勝利」という基本路線に、これでもかというほど丁寧に「友情」が加わっているわけですね。
「友情・努力・勝利」って、本気でやるとこんなに面白いのか、というのを改めて思い知らされました。いやー、本当2巻発売が待ち遠しいです。
記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。Twitterアカウントは@frog88。
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ハイキュー!!|連載作品|集英社『週刊少年ジャンプ』公式サイト shonenjump.com
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