時事社会ネタ、風刺ネタというのはギャグの定番のひとつです。「笑い」自体が、常識や現在の価値観を少しズラすことで生まれると分析されたりもしますし、風刺は笑いの基本中の基本ともいえます。
しかも、商業誌でやる風刺ギャグって本来の風刺的面白さだけじゃないでしょ? そう、チキンレース的スリルもあるわけです。
風刺というのはヘタにやろうとすると、ただの悪口になってしまうものです。しかも、その2つの境界線は非常に曖昧で繊細なので、どこまで描くか、どこまで踏み込むかは、特に社会的責任の大きい商業出版では難しい問題です。踏み込みすぎると少年誌最終奥義といわれる「大人の事情」が発動したりしますからね。かといって、安全すぎるところをネタにしても面白くありません。このさじ加減の難しさが商業的風刺のスリリングなところです。マンガでは描けたけど、アニメではお蔵入りなんてケースもありますしね。
このように、時事社会、風刺系ギャグ界隈では、日夜多くの作家さんがまだ見ぬギリギリのボーダーラインを探し求めて、攻めの表現を追求している(と勝手に僕が思っている)わけです。特に有名なギリギリ探しのマイスターは、久米田康治と木多康昭になるでしょうね。常に「ギリギリセーフ」を狙う職人的久米田と、常に「ギリギリアウト」を狙ってる勢いの芸術家的木多の両氏は、対照的ながらいつも興奮させられます。
そんな風刺ネタ界に新たに現れた期待作が月刊!スピリッツに連載中の「拝啓、旧人類様。」(野田宏)です。「方舟ギャグ」と銘打たれた本作は、現在の人類が滅びたあとの、“新人類(ニュウメン)”の時代が舞台。平成期の“旧人類”の化石を発掘し、その人種を復活させるかどうかを議論するという形で、“新人類”の視点から平成の人類を斬っていくギャグです。
実際にどんな“旧人類”が登場するかというと、ギャル種、カメラ女子種、モンスターペアレント種とか。まぁ、この選出の時点でどういう作品か察していただけると思います。“新人類”が“旧人類”への敬意を抱いているがゆえに、勝手によい方に誤解したりというのを含め、バカっぽく、かつニヤッとさせられるネタが多いです。
とはいえ、「カメラ女子」などのおおざっぱなカテゴリー自体をネタにしているので、チキンレース的な楽しみとしては比較的安全なところを攻めているなと思っていたのですが、いやぁ、話が進むにつれ、攻め気が強くなってきます。誰のことかはまったくわかりませんが、立て襟の人を皮切りに、カート・コバーンの生まれ変わりとか徐々に特定の誰かっぽいところを突き始め、1巻終盤ではとうとうシェフ出てきましたからね。帯にもバッチリ出てますし。誰のことかはわかりませんが、スマイリーなシェフは完全に風刺ギャグのボーダー的にセーフティゾーンに入ったんだなと改めて思わされました。
次巻予告を見る限り、2巻でもまだまだ攻めてくれそうな雰囲気ですので、ぜひともさらに攻め気で風刺ギャグ界の新たなギリギリマイスターになって欲しいと、勝手に期待しております。
記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。Twitterアカウントは@frog88。
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