全国の「じれったい恋」愛好家の皆さん、胸キュンの準備はいいだろうか。今日はレビューではない。朗報だ。「日々蝶々」(森下suu)は必ずやあなたをキュンキュンさせてくれるはずだから。
とまぁ、興奮気味に書き始めてしまったが、それくらい圧倒的な初々しさなのだ。
「日々蝶々」は、学校一の美少女・すいれんが主人公の恋物語だ。少女マンガで“学園のマドンナ”が主人公というのはちょっと珍しい。当然だ。生まれついての完璧美少女なんて、多くの人はなかなか感情移入できない。男性誌ラブコメだって、完璧超人みたいなイケメンが主人公だったら、男性読者は腹が立ってくるだろう。だから、飛び抜けた美少女やらイケメンが主人公になるときは、たいがい「残念な」という設定がつけられる。
しかし、すいれんは疑いなく純正のマドンナだ。クラスの男子は全員見とれ、学校中で噂になり、果ては「(高嶺の花の)高嶺ちゃん」なんてあだ名まで付けられる。性格に裏表があるわけでもなく、純情可憐そのものだ。
ここまで読んだら、たいていの人は「それでどうやってじれったい恋になるんだよ」と思うだろう。そんな美少女が恋をしたら、当然すぐに叶ってしまう。
ところが、じれったいのだ。なぜなら、すいれんは極度の純情少女で、かつ信じられないほど無口だから。
どれくらい無口かというと、第1話、回想シーンを除いてすいれんが喋るのは「よろしくね」というたった一言だけ。回想シーンを入れてもフキダシがついているのは合計5回だけだ(しかも、うち1つは「…………」)。
そんな彼女が出会うのが、空手男子の川澄くんなのだが、彼もまた無口。女の子慣れしてなくて、口べたな男の子なのだ。
こういう2人だから、話はなかなか進まない。まともに会話するまで何話かかるんだ、というくらいじれったい。すいれんにいたっては、自分の恋心に気付くのにもかなりの時間がかかっている。
だけど、それがいいのだ。普段は無口で無表情、感情の動きも乏しそうなすいれんだからこそ、ふと見せる表情の変化や、行動、言葉がたまらなくキュンとくる。純情少年の川澄くんは、当然そんな微妙な感情表現に気付かないのだけど、そういうところがまたいちいち初々しくてドキドキしてしまう。
1巻が終わった時点で、ようやく知り合いになったかという程度のこの2人。じれったくて仕方ないんだけど、一方でずっとその初々しさを眺めていたいような、とびきりの少女マンガだ。
(このレビューは第1巻までのものです)
記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。Twitterアカウントは@frog88。
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