「満ちても欠けても」(水谷フーカ)
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水谷フーカにラジオ局の話を描かせようと提案した編集者は偉いと思う。それくらいこの組み合わせはハマッている。水谷フーカは、日常の些細な出来事からドラマを見つけ出すのが上手な作家だ。恋愛でも何でも、ドラマチックでスペシャルな風景を作り上げるというより、いつもどおりの生活からまばゆい瞬間を見出してみせるような話が多い。
ラジオというメディアは、そういう水谷の作風に似ている部分がある。華やかな芸能界とドラマチックなニュースや話題を中心にしたテレビは、お茶の間にある非日常だ。一方、ラジオは日常に近い。各局、さまざまな番組があり、タレントもたくさん出ているが、その多くは生放送で、リスナーからのメールやファックスを中心に構成されている。テレビは極端に言えば視聴者がまったくいなくても成立するけれど、ラジオはリスナーがいなければ成立しない。ラジオは常にリスナーの日常の上を走っているメディアなのだ。ラジオ局で働く人々を主人公にしたオムニバスシリーズである本作は、特殊な職種を垣間見るお仕事ものという側面以上に、そういうラジオの“生活感”がよく出ている。だから、各エピソードの最後に挟まれる、登場人物への「ラジオは好きですか?」という問いかけは、「あなたの日常は楽しいですか?」と同じ響きになっているのだ。
【ここにも注目!】
あるリスナーが番組を通じて意外な“出会い”を果たす第3話。ラジオを聞かない人は、そんな奇跡みたいな話、マンガだけだと思うかもしれないけれど、ラジオではしばしば奇跡が起こる。リスナーがラジオでこっそり告白したら、それを聴いていた告白の相手が番組にメールを送ってくるなんてことが、2時間くらいの番組では本当に起こるのだ。日常で起こる奇跡は、ラジオでも起こる。そういう面白さが本作にはキッチリ詰まっている。
(このレビューは第1巻時点のものです)
記事:ネルヤ編集部
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