“真実”が散在するポスト3.11の世界で、噛み合わないまま恋に落ちる2人——「Young,Alive,in Love」(西島大介)


今さらいうまでもなく、3.11は明らかにこの国を揺るがし、巨大な変化をもたらす出来事だった。「だった」というよりも、あの日以来、それは現在進行形で続いている。

しかし一方で、東京で暮らす僕らの生活は、一見あの日以前と変わらないようにも見える。電車に乗り、コンビニで買い物をし、テレビを見て、布団で眠る。街灯は少し減ったかもしれない。だけど、以前と以後の写真を並べられても、たぶんほとんど見分けがつかないだろう。3.11は何かを明確に変えたと誰もが感じていながら、どこで何がどう変わったかは、目に見えない。目に見えないから、さまざまな人がさまざまな立場から変化を語り、語られた無数の言葉がひとつにまとまらないまま、この国のあらゆる場所に散在するようになった。

「Young,Alive,in Love」(西島大介)には、そういう3.11後の東京が描かれている。

“湯沸かし器”と呼ばれる施設が小さな爆発を起こした日、少年と少女が出会うところから物語は始まる。「放射能」の影に騒ぎ出す人、大丈夫だと説明する人、何事もなかったかのように暮らす人……。多くの人々が、それぞれの“真実”を語り、噛み合わないまま事態だけが淡々と進んでいく。

不穏な空気を共有する主人公・マコトとヒロイン・マナですら、認識する世界はバラバラで、かたやは「放射能」を語り、かたやは「幽霊」を見ている。そして、噛み合わないまま、彼らは恋に落ちていく。

ポップな絵柄と手触りのない不安が組み合わされた「Young,Alive,in Love」は、“真実”が定まらなくてもまわっていく世界と、噛み合わなくても恋に落ちる人々をとおして、新しい時代の生き抜き方を探りだそうとしている。

(このレビューは第1巻時点のものです)

記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。最近、明らかに自分のものではない、長い髪が自宅の床に落ちているんですが、僕のいない間に誰かがこの部屋で暮らしてるんでしょうか? Twitterアカウントは@frog88

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Young,Alive,in Love/西島大介 | ジャンプ改 公式サイト

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