“男の妊娠”はフィクションか、それとも現実か?——「ヒヤマケンタロウの妊娠」(坂井恵理)



「ヒヤマケンタロウの妊娠」(坂井恵理)
社会ドラマ:★★★★☆
ハートフル:★★★★☆
SF性:★★☆☆☆

坂井恵理はifを描く人だ。「ビューティフルピープル・パーフェクトワールド」では、誰もが美容整形をするようになった世界を生きる人々を描き、そして今度は本作「ヒヤマケンタロウの妊娠」で、女性の約10分の1程度の確率で男が妊娠する世界を展開してみせた。タイトルにもなっている桧山健太郎を中心に、妊娠した男性、場合によっては女性の物語を連作オムニバス形式で見せている。

ifであるということはフィクションであるということであると同時に、ある部分では現実に即しているということだ。では、現実に即している部分とはどこか? 社会背景などはもちろんだが、実は「男性の妊娠」という部分もある意味では“現実に起こっていること”なのだと思う。もちろん生物学的な意味での男は妊娠しない。だけど、男性同様に働き、結婚しても会社で活躍する女性はいる。彼女たちは社会的には従来の“男性”の役割を持っている。“男性の妊娠”は、社会的に男性同様のライフスタイル、ライフプランを選択しうる女性の妊娠のメタファーとしても機能しているのだ。そして、社会は彼女たちの妊娠をまだケアしきれていない。桧山健太郎の妊娠は、男性の妊娠であると同時に、現実にある女性の妊娠そのものの物語でもあるのだ。

【ここにも注目!】
自分が妊娠することになって初めて妊婦の気持ちや立場に気付かされる男性側の描写も面白いが、男性が妊娠するようになって初めて思わず「本当に私の子?」と口にする男の気持ちに気付く女性の描写など、男女それぞれの発見を描いている部分も興味深いところ。

(本作は1巻完結です)

記事:ネルヤ編集部

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