【書店ぶらり旅Vol.02(前編)】「大型書店はAmazon化すべきか?」という問いかけへのひとつの解答——あおい書店横浜店


マンガと読者をつなぐ最前線・書店をぶらりと巡る「書店ぶらり旅」。第2回の今回は、あおい書店横浜店にお邪魔した。

今回のぶらりメンバー

小林聖(@frog88)

小林聖(@frog88):ネルヤ編集長兼フリーライター。年間マンガ購入数は約750冊。4月に行った取材の記事がようやく今上がったというのはすべて小林が悪い。

catu(@catucatu)

catu(@catucatu:出版業界の端っこで働くマンガ好き。マンガとはまったく関係ないが、今年の夏は、TLを「シャービック」の文字で埋め尽くし、シャービック中毒者を量産していた。

ランジェ(@ranjye:都内某書店でアルバイト中。年間マンガ購入数は約1000冊。最近は“コミック担当者の集まり”(@comitans)に参加する姿も。

太田和成:あゆみBOOKS早稲田店・コミック担当。第1回書店ぶらり旅で店舗にお邪魔し、さんざん拘束するメンバーに笑顔で対応してくれた。11月からは五反田店へ異動!

売り場が広いというのは、書店にとってそれだけで武器になり得る。広ければ広いだけ、たくさんの本が並べられる。欲しい本に巡り会える確率も上がる。そういう考え方を究極的に拡大したのがAmazonをはじめとしたネット書店だ。事実上無限の売り場に24時間営業。しかも、ネットさえあれば全国のどこでも最寄り店になる。

では、大型書店の行き着く先はAmazonなのか? 広いコミック売り場を持つあおい書店横浜店が我々に提示する答えは、おそらく“No”だ。

■新刊よりも既刊が売れる店

さて、レポートをお届けする前に、まずは編集部からお詫びを申し上げなくてはならない。ぶらりメンバーがあおい書店横浜店にお邪魔したのは、今年の4月末。そして、今が10月。これは、この原稿を担当するライターの小林が悪い。普段から原稿が遅い遅いとはいわれているが、本気を遅筆がついうっかり本気を出した結果、半年が経過した。小林が悪い。さらに、今さら旬の過ぎた「太田が悪い」ネタを使ってお茶を濁そうとしている。小林が悪い。

なので、今回のレポートでは店頭写真がすべて半年前のものになっており、現在の在庫状況や展開とは異なったものになっている。この点についてご了承いただければと思う。

そういったわけで、さかのぼること半年前、4月の暮れにぶらりメンバーは横浜駅から徒歩約8分、あおい書店横浜店に降り立った。

第一印象は何といっても「広い」! 超大型店というわけではないが、ダイエーの入っている大型ビルの5Fと6Fをまるまる占有。コミック売り場だけでも、6Fのかなりの面積を占めている。レジの少し先にある新刊台もレーベルごとにおおよその定位置が確保されており、1か月サイクルで回せるだけの広さがある。これだけでも、普段自店ではかなり狭いスペースで売り場作りをしているあゆみBOOKSの太田氏は「いいっすねぇ」とぽつり。「うちは19日発売の単行本が(28日のこの日)もう新刊台から外れてますよ(笑)」と羨ましそうな様子だった。

到着したぶらりメンバー一行。前回のぶらりで訪ねたあゆみBOOKS早稲田店が小さなお店だっただけに、今回は特に広い印象が強くなる。

新刊台。手前に直近の最新刊、その奥は女性誌、男性誌の書くレーベルの新刊が並ぶ。

だが、単に新刊が並んでいるだけではない。新刊台だけ見てもほかの店ではなかなか積まれていない作品が目に付く。棚の調整を行っているのはもちろんコミック担当の石田氏。普段から雑誌でチェックして、新作などに目を光らせている。

この日でいえば、たとえば宮下裕樹の「リュウマのガゴウ」がガッツリ積まれている。

いわゆる“売れ線”の作品ももちろんある。が、ターミナル駅である横浜は競合店の多いエリア。しかも、あおい書店はそのなかでは決して駅に近い店舗ではない。どこにでもある作品ばかりを並べても、わざわざ足を運ばせる売り場にはできない。ほかにないラインナップが必要なのだ。石田氏はハッキリと「うちは新刊は限られたものでやっている」という。

もっといえば、ここの勝負所は新刊ではない。「既刊を売ってこその書店」と石田氏は語る。

一般的に書店のキラーアイテムは新刊だ。楽しみにしていた作品の新刊が出れば、当然買いに行くユーザーは多い。1店舗で何百冊と売れる作品もある。だが、そういう作品は書店にとって水物という性格も強い。たとえば、「ONE PIECE」のような作品は、どこでも売れるが、どこの書店にも入荷される。コンビニなどにも大量に入る。だから、ちょっとした条件で買う場所が変わる。発売日に雨が降れば、駅から遠い店に足を運ぶのが面倒になって、普段は使わない店で買うなんてこともよくある。そうすると、新刊の返本率は当然上がってしまう。

だから、返本率を安定させるためにも、他店舗でなく自店舗へ足を運ばせるために、既刊が重要になるというわけだ。そして、実際あおい書店横浜店では、新刊よりも既刊のほうが売れているという。

■「うちの棚はちょっとわかりにくくしてる」(石田)

店内を案内してくださった、あおい書店横浜店・コミック担当の石田真悟氏。このときのプッシュタイトルは「浪漫派寮生小島」(末吉誠)。遅くなってしまったのは小林が悪い。

では、その既刊棚はどうなっているか? 実は、広いこの店の既刊棚も、あゆみBOOKS早稲田店とは違った意味で魔窟になっている。石田氏はこう語る。

「うちは基本的にちょっとわかりにくく棚を作ってるんです。お客さんに作品を探してウロウロしてもらいたいんで」。

わかりにくい売り場というのは、普通に考えるとよくない。たとえたくさんの在庫があっても、欲しい本がパッと見つからないのでは意味がない。だから、大量に在庫があるネット書店は検索とセットになっていて、目的の本がすぐ見つかるようになっている。

しかし、在庫があるだけなら、それは“売り場”ではなく、“倉庫”だ。

ネット書店は、知らない本に出会いにくい。特定の本を探しているときはいいが、目的のないときにブラブラと見て回る楽しさや、知らない本にたどり着くためのルートはあまりない。広いリアル書店は歩き回り、さまざまな作品に出会うことができる。あおい書店横浜店は、意図的にレーベルを横断するような配置などを行い、店内を歩き回る仕組みを作っている。それは一見不便だが、訪れた客に知らないタイトルとの出会いを提供してくれる。広い店舗をただの既刊倉庫から、売り場に変えるための仕掛けがこの書店の棚には施されているのだ。

■“面陳が基本”という売り場を支えるもの

では、実際にどんな既刊棚になっているのかを、さっそく見ていくことに。目をやってまず気付いたのは……あれ、平台がない?

店内の一角。特設棚を除くと、基本的に平台がない。

各所に設置された特設棚は平台だが、通常の棚の前には平台がない。その代わりに、あらゆる棚で作品が面陳されているのだ。現在の書店では、棚差しと、その前に平台というスタイルが多いので、これ自体ちょっぴり珍しい。

が、catu氏も「平台より見やすいですよね、これ」というように、これが想像以上に目にとまる。やや背が高めの棚で面陳されているため、目線の高さに置かれた作品が自然に視界に入るのだ。しかも、面陳に目が行けば、同時にまわりの棚差しにも目に入る。平台よりいいんじゃないのか、これ?

レーベルごとの棚もこんな感じでがっちり面陳。不思議と平積みよりも各タイトルが埋もれている印象が薄く、インパクトが大きく感じられる。

といっても、面陳のデメリットもある。面陳すれば、棚差しできる冊数は減る。平台がない分、置ける棚の数が増えたとしても、ある程度広い店でなければ面陳中心というのは難しいだろう。さらに置ける量も限られる。平台なら10冊単位で積み上げられるが、面陳では数冊が限界。「うちだと7冊が限度なんですよね」と石田氏も話す。

置けないということは、その分こまめに補充をしなければいけないということ。面陳中心の店舗はそれだけ手間暇かかっているのだ。

しかも、ランジェ氏が足下を見て驚きの声を上げる。「ここ、ストッカーないんですけど……!」。

各棚は足下までしっかり本が詰まっており、ストッカーがない! 「これ、どうやって補充してるんですかね!?」(ランジェ)

通常、書店の棚の足下には、ストッカーと呼ばれる在庫保存場所が用意されており、売れて棚からなくなった単行本をすぐに補充できるようになっている。だが、そのストッカーがない。あおい書店横浜店の場合、在庫はすべてバックヤードにあるという。マメに補充をしなければならない上に、膨大な在庫も一括管理で、どこに何があるか把握しなければならないのだ。

派手なPOPや装飾が多いわけではないが、実はこの店の棚、細部にいたるまで手間暇がかかっているのだ。それが、ただ迷わせるだけでなく、“歩いているうちに出会える”棚を作っている。後編では、そんな棚の工夫をさらに細かく見ていくのでお楽しみに。

後編はこちら

■店舗データ


あおい書店横浜店
住所:神奈川県横浜市西区南幸2-16-1 ダイエー横浜西口店5F・6F
電話番号:045-349-8377
営業時間:10:00~23:00
URL:http://www.aoishoten.co.jp/
MAP:あおい書店横浜店

※掲載した店舗情報は2012年10月31日、写真などは2012年4月28日時点のものです。

記事:小林聖
ネルヤ編集長。フリーライター。小林が悪い。Twitterアカウントは@frog88

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