書店はマンガと読者をつなぐ最前線。マンガ好きにとっては単なる買い物の場所ではなく、見て回るだけで楽しいスポットでもあります。
そんな書店をマンガ好きたちがぶらりと巡りながらレポートする本企画。第1回は小規模店ながらとんでもなく“濃い”棚を展開するあゆみBOOKS早稲田店をぶらり!
今回のぶらりメンバー
東京・新宿区、東京メトロ東西線早稲田駅から徒歩数十秒のところに店舗を構えるあゆみBOOKS早稲田店。このお店の売り場面積は45坪(約150平米)ほど。といっても、ピンとこないと思うが、セブンイレブンの平均売り場面積が約35坪(約116平米)ということなので、少し大きめのコンビニくらいのサイズと思ってもらえればいいと思います。参考までにいえば、大型チェーンの都内旗艦書店などは2000坪クラスにもなりますので、おそらくそういう大型店ならマンガコーナーだけでもこのお店が丸ごと数店舗入ってしまうはず。本当に小さなお店なんです。
「なんでまたそんな小さなお店に?」と思われるかもしれませんが、このお店、小さいけれど“濃い”んです。今回同行したランジェさんは、以前この店に来たとき「マンガを買うつもりなんてなかったのに、気付くと何冊もレジに持ち込んでいた。何を言っているのかわからないと思うが(ry」とポルナレフみたいなことを言ってましたが、そういう形容しがたい魔力みたいなものがあるんですよね。
そんなわけで、この日は事前に「僕は買い物して帰りますけど、別に無理して買わなくてもいいですからね」と言っておいたんですが、全員が「今日はどうせたくさん買って帰るので移動中に読むマンガはあまり持ってきませんでした」と大変よくわかってらっしゃる状態で店舗に集まっていました。(※ネルヤがふんわり調べたところ、重度のマンガ好きは基本的に全員電車などでの移動中に読むためのマンガを常時数冊カバンに入れているという生態が明らかになっています)
さて、まずは今回の取材を快く受けてくれたコミック担当の太田和成さんにご挨拶して、さっそく店内をブラブラとチェックしていきましょう。
このお店のマンガ売り場は大きく分けて2つ。メインとなるマンガ売り場は店舗の最奥部。もう1つは入り口近くのレジ横に設置された新刊コーナーです。
メインのマンガコーナーは長くなりそうなので、最初はとりあえず新刊コーナーからチェックしていくことに。
新刊コーナーというのは、文字どおりリリースされたばかりの単行本が並ぶので、基本的に並べられるタイトルのバリエーションは既刊コーナーに比べて少なく、比較的書店による違いが出にくいスペース。が、それでもやはり店舗のカラーは出ます。
catuさんが違和感を感じたのはこの部分。
「『もやしもん』と『刻刻』が競い合うように並んでるんですけど」とcatuさん。確かにメディアミックスなどを経て認知度も高くなっている「もやしもん」と同数ペースで「刻刻」が入荷されるのはなかなか見ませんね。書店員のランジェさんから見ても「異常です(笑)」らしいです。
でも、売るんですよ、このお店。実際「刻刻」は日本で5番目に多く売った実績があるそうです。仮に一気に売れなくても、ジワジワじっくり売ってしまう。太田さんはさらっと「去年120冊入荷した某作品は売り切るのに1年かかりましたね」と言っていましたが、新刊でなくなったタイトルを1年ジワジワ売ったって、逆にすごいですよ……。
ただ、立地的にジワジワ売るのに向いているというところはあるようです。「早稲田って場所は学生さんが多いんですが、学生さんって1年ごとに入れ替わるじゃないですか。だから、ある程度売った作品でも、時期が来ればまた新しいお客さんに売れたりするんですよね。逆に地元の人しか来ないような立地なら、どんどん棚を入れ替えていかないと飽きられちゃう」(太田)。
ただ、こういった「担当が売りたい作品を大量に入れて大々的にプッシュする」というスタイルってやろうと思ってもそんなに簡単じゃないです。
ちょっとややこしいですが、書店流通の仕組みの仕組みの話をしましょう。日本の場合、ほとんどのマンガや書籍は委託販売の形を取っており、出版社が店頭に置かせてもらうという形を取っています。つまり、書店は入荷した段階でいったんその本を購入しているわけですが、売れなかった分は一定期間で返却(返本)でき、代金を返してもらえるという仕組みなんですね。
これだけ聞くと「じゃあ、書店はノーリスクでいくらでも欲しい本を入荷できるじゃん」というふうに思えますが、そういうわけじゃありません。出版社は返本の山を抱えてしまうリスクがあるので、いつでも潤沢に本を印刷しているとは限りません。印刷された数よりも、書店からの入荷希望の総数が多い場合、全店舗にリクエストどおり本を配るのは不可能です。なので、取次という本の流通を行う会社が入荷する数を調整するわけですが、このとき実際どの店舗にどれくらい配布するかを左右するのが過去の販売実績。要するに普段たくさん売っているお店は、他よりも売れるだろうからたくさん本を配る、というわけです。取次や店舗によって仕組みの違いはありますが、基本的にはいくら「売りたい!」と思っても、絶対数の少ない作品をたくさん仕入れるには、普段からしっかり売り上げを作っておく必要があるわけです。さらに、たくさん入っても、今度はそれをきちんと売らないといけません。というのは、入れたはいいけど売れなかったからといって大量に返本すると、「あの店は売れないから次回から配本を減らそう」ということになってしまいます。
新刊コーナーで担当者の個性が出せるようにするには、面白いマンガを探すアンテナが敏感でないといけないのはもちろんですが、極力希望どおりの数のマンガを入荷できるように普段からしっかり売ってないといけないわけです。
特に学生街である早稲田では、大学が休みの時期と授業のある時期で大きく客足が変わる。同じ作品でも時期によって売れ行きが違うので、入荷数もこまめにリクエストしてコントロールする必要があります。たとえば、大学の休暇期間中の売れ行きを参考にされて入荷数を決められると、授業期間中には全然足りない状態になったりしますからね。
決して大きくない売り場スペースのなかで、担当者の趣味色を出すっていうのはそれだけ難しいんです。
さてさて、新刊棚だけでもぶらりメンバー的にはだいぶ盛り上がったのですが、これはまだ序の口。次回はいよいよぶらりメンバーが口を揃えて「異様ですよ!!」と言うマンガコーナーに入っていきます。
といっても、今回だけ見ても何となくすごさがピンと来ないと思うので、ちょっとだけその様子を。
このちょっと「どうかしてる」POPの量、おわかりになるでしょうか。後編ではこの棚をチェックしていきます。お楽しみに!
あゆみBOOKS早稲田店
住所:東京都新宿区馬場下町62-4 芝田ビル1F
電話番号:03-3203-7123
営業時間:8:00~25:00
URL http://www.ayumibooks.jp/
MAP あゆみBOOKS早稲田店
※掲載した店舗情報はすべて2012年3月24日時点のものです。
記事:小林聖
ネルヤ編集長。フリーライター。Twitterアカウントは@frog88。
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