【 #俺マン2012 総評】男性マンガ・女性マンガの垣根が消えたマンガ界で、独立勢力となる2つのジャンル


■4コマファンは従来の“マンガ読み”とは異なる勢力圏になっている?

では、この4コマと百合という2ジャンルから俺マンの結果を見ていくと、どうなっているのか?

まず、4コマでトップになっているのは27位の「月刊少女野崎くん」(椿いづみ)。ガンガンONLINEでの連載なので、いわゆる4コマ誌の作品ではない。形式として4コマの形を取っているという意味では32位の「マスタード・チョコレート」(冬川智子)が次点になるが、いわゆる4コマとはちょっと毛色が異なる。

いわゆる4コマ誌の作品としては、158位に入っている芳文社の「アキタランド・ゴシック」(器械)が最上位。その後には3票獲得の竹書房「ひみつのおねえちゃん」(藤生)、芳文社「棺担ぎのクロ。 〜懐中旅話〜」(きゆづきさとこ)、「平成生まれ」(ハトポポコ)、「くすりのマジョラム」(鈴城芹)といった作品が続いている。

ランキング系の企画ではここ数年、よく「4コマ作品のランクインしにくさ」というのが取りざたされることがある。今回の俺マンを見ていても、作品数としてはかなりの量がありながら、上位にはなかなか入ってこない。それにはさまざまな要因が考えられるが、俺マンの集計を通じて大きいと感じたのは、ユーザーの分離だ。

マンガ好きの間では、いまや作品を「男性向け」「女性向け」と分けることに意義があるのかといわれるほど、ボーダーレス化が進んでいる。実際、投票を見ていても、いわゆる女性誌の作品にも、男性誌の作品にも票を入れるユーザーはかなり多い。「俺物語!!」の圧倒的な票数での第1位というのは、そうした状況を象徴しているといっていい。幅広い読者が読んでいるからこそ、これだけの票が集まったのだ。

だが、ボーダーレスといわれる状況下で、例外的にハッキリとユーザー層の違いを感じさせるジャンルもある。4コマはそのひとつだ。つまり、4コマ作品を挙げるユーザーは、4コマ作品ばかりを挙げているケースが比較的多く、逆に幅広いジャンルから作品を挙げている層が4コマ誌の作品を挙げるケースも少ない。つまり、現状では4コマは従来のいわゆる“マンガ読み”と呼ばれる層とは別のクラスタという印象なのだ。



■着実にファンをつかむ百合

こうしたボーダーが色濃く出ているもうひとつのジャンルが百合だ。百合も専門誌を多く持っているが、一方で百合専門誌の作品を挙げるユーザーと、従来の“マンガ読み”層は分離している印象が強い。

ランキング上でも、カテゴリー的に百合に入る作品としては「彼女とカメラと彼女の季節」(月子)が16位とかなり上位にいるが、本作はモーニング・ツーで連載されている作品。百合専門誌の掲載作としては、4票獲得の「魚の見る夢」(小川麻衣子)、「総合タワーリシチ」(あらた伊里)という芳文社・つぼみ系の2作品が最上位となる。

芳文社などが強い4コマと百合は、飛び抜けて票を集める“有名作”はないものの、着実にファンをつかんでいる。そして、そのファン層は、今回の投票を見る限りでは、4コマ同様、従来の“マンガファン”とは別の市場を開拓していっている印象だ。この2ジャンルから、クラスタの外へ突き抜けていく強烈な作品が生まれたとき、一気にボーダーが崩れ、ランキング上位での存在感を増してくるのではないかというのが個人的な印象だ。特に4コマは古くから慣れ親しまれたマンガの形式であり、静かに盛り上がっている現在の状況から考えても、近い将来一気に大きくなる可能性を秘めていると思う。


■BLへの垣根を崩すon BlueとITAN

さて、投票ユーザーがきれいに分かれるという点ではBLもその代表格だ。BL専門という感じで作品を挙げるユーザーも少なくなかった。

だが、一方でBLはボーダーレス化が進んでいるという感触が強い。実際、ランキングでもガッツリBLである「空と原」(中村明日美子)が67位にランクイン。200位以内では106位の「新宿ラッキーホール」(雲田はるこ)、158位の「宇田川町で待っててよ。」(秀良子)の2作品が入っている。ともに祥伝社のBL専門誌・on Blueからの作品だ。

もちろん「BLというジャンルがすでに一般化した」といえるような状況ではないが、on Blueの存在感というのは俺マン2012におけるひとつのトピックスといっていいだろう。ITANなどの雑誌がBL系の作家を多く起用し、非BL作品でブレイクさせていく一方で、on Blueは知名度の上がったBL出身作家に改めてBLを描かせるという形で、一般誌で作家を知ったファンをBLに逆輸入するような役割を担っているといえるだろう。結果として、BLというジャンルにあったハードルはさらに下がり、ランキング上位でも存在感を持ち始めている。今後もBLの存在感は増していくのではないかと思う。


記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。モンハン4が発売延期されたので、それまでのつなぎとしてモンハン3Gに戻ってきました(ただし、カートリッジなくしたのでハンターランク1からやり直し)。Twitterアカウントは@frog88

関連記事
今年のマンガの話をしよう #俺マン2012
#俺マン2012 総集計結果
【#俺マン2012 総評】集計結果から探る、注目のルーキー、ネクストブレイクは誰か?

No comments yet.

この記事にコメントする

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)