「面白い作品があるよ」といわれたら、たいてい「へー、どんなの?」と聞き返すでしょう? そしたら、返答が「ホクロからレーザーが出る」。
「え?」
「ホクロからレーザーが出る」
「え?」
まぁ、だいたい会話にならない。自分の耳か、相手の頭がおかしいと判断されるし、最悪そのまま病院送りにされる。親戚の間で「気の毒な人」みたいな噂が立つレベルだ。
だが、「プラスチック・サージェリー」(円城寺真己)は、本当にホクロからレーザー出てる。レーザーでホクロを取りにいったらホクロからレーザーが出るようになってた。出オチとかワンシーンだけ使われるギャグとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。「ホクロからレーザー」で1冊描ききっているのだ。
しかも、そこまでトンデモSFの設定をかましてきて何が始まるかといったら、痴話ゲンカだ。
ホクロからのレーザーで街を壊滅させる女に対し、警察は武力を投入し、彼女の射殺を試みる。彼氏である男はわけのわからない状況に戸惑いながら、ほとんど衝動的に彼女のもとへ駆け寄る。
だが、このカップル、もともとマンネリ気味なものだから、まぁ、しまらない。泣きじゃくる女となだめる男、その姿は必死なのだが(何しろ命がけだ)、街を破壊しまくっているという状況に対して、会話のレベルが低すぎる。まさに「シリアスな笑い」で、本気なだけに感動的なんだか、ギャグなんだかわからなくなる。
このダイナミズムはすごい。何しろ、世界(この場合街)の運命と、痴話ゲンカが並列に並んでいる。いわばセカイ系の亜種なのだ。
過剰な痴話ゲンカと見ればギャグ、命がけの愛の物語と読めば感動巨編。読み手を翻弄するようなアンビバレントな読み味はちょっとヤバい。
(本作は1巻完結です)
記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。この時期になると毎年スピッツの「夏が終わる」を聞きます。仕事のご相談とか承っていますので、お問い合わせかTwitterでお気軽にどうぞ。Twitterアカウントは@frog88。
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