人はなぜ祈るのか? 孤独と救済をめぐる祈りの物語――「星屑クライベイビー」(渡辺カナ)


この国で今、真剣に神様の存在を信じている人は、たぶん少ないだろう。倫理の守り手として心のなかに神様を持っているというようなことはあっても、神様が実在して世界を司っている思うには、社会はちょっと窮屈だ。

だけど、そういう時代であっても、人はしばしば心許ない神様に願いをかけることがある。なぜ人は意味がないとわかっていながら、それでも祈るのだろう。

「星屑クライベイビー」(渡辺カナ)は、祈りの意味を教えてくれる作品集だ。

たとえば、収録作のひとつ「デイ・ドリーム・ビリーバー」は、好意を寄せる幼なじみから「男しか好きになれない」と打ち明けられた女子高生の物語だ。彼女の恋は、始まる前に終わってしまっている。どんなに彼の願いを叶えたいと思っても、彼女にできることはほとんど何もない。祈ることくらいだ。

もちろん、彼女の祈りが世界を変えることはない。正論からいえば、何の意味もない。だが、その祈りは胸を打つ。

祈るというのは、自分の不完全さとの和解だ。自分の無力さに直面し、挫折したとき、無力な自分を受け入れ、もう一度世界と和解する。そのとき、人は祈るのだと思う。

「星屑クライベイビー」に収録されている作品は、青春時代に直面する、挫折と孤独の瞬間が描かれている。そして、同時に祈りとささやかな救済を見せてくれる。

その祈りは、世界を変えてはくれないけれど、自分を少しだけ変えてくれる。寂しくて、でも、優しい本作は、祈ることの美しさを教えてくれる。

記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。プロフィールの文言に悩むたびに、ライターとしての自分のキャリアに不安を感じます。Twitterアカウントは@frog88

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星屑クライベイビー| マーガレットコミックス|BOOKNAVI|集英社
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