恋が解き明かされる瞬間の鮮やかさ——「透明人間の恋」(安藤ゆき)


恋愛マンガというジャンルは、基本的に冒頭を見た瞬間にラストがわかるようになっている。もちろん、あらすじが詳細にわかるわけじゃないけど、最終的に誰と誰がくっつく話なのかはわかるし、わかるように作られている。

ざっくりいうならば、恋愛マンガにとって結果にはあまり意味がない。それよりも、どんなプロセスを経て結ばれるかに意味があるし、ドラマがある。だから、結末はわかっていてもいいのだ。

そういう意味でいうと、「透明人間の恋」(安藤ゆき)は恋愛マンガのセオリーを踏み外した作品集だ。表題作を含め、本作に収録された5本の作品は、いずれも恋愛をテーマにしていながら、辿り着くべきエンディングがわからぬまま展開されていく。

もっともわかりやすいのは「勝手な2人」だ。この作品は、彼氏と別れたばかりの主人公が、毎回彼女を友人に取られてしまう男子を紹介されるところから始まる。なぜ顔も性格も申し分ない彼が、恋人を奪われてしまうのか? 恋をめぐる物語であるのはもちろんだが、「勝手な2人」は、それ以上にミステリーのように謎をめぐる物語になっている。

「恋はミステリー」なんてフレーズがあるけれど、「透明人間の恋」に収録された作品にとって、恋愛はミステリーに近いのだ。

告白したクラスメイトの男子に「あんた、鏡みたことあんの?」と容姿について辛辣な言葉をかけられてフラれた主人公が、目を覚ましたかのようにキレイになっていく表題作。顔も料理の腕もいいけれど、やたらと口うるさいシェフのいる店とそこに通う主人公を描くわずか8Pの掌編「そこは注文の多い料理店」。どれも徐々に全体像が見え始め、ラストシーンで全てが解き明かされるような構成になっている。

じゃあ、今流行りの「日常のなかのミステリー」を描くような作品かというと、そうではない。「透明人間の恋」の作品で解き明かされるのは、登場人物たちの気持ちなのだ。

人間の気持ちはいつだってわかりにくい。恋心をよせる相手が何を思っているかはもちろん、ときとして自分自身が何を思っているかだって自明ではない。登場人物たちは、エンディングで相手の、そして自分自身の気持ちに辿り着く。それは、初めて相手の心と自分の心に触れる瞬間だといってもいい。

そう、巧みなストーリーテリングで解き明かされるのは、恋心だ。そして、スマートな推理でなく、不器用な体当たりで解き明かされたその結末は、どんなミステリーよりも鮮やかな印象を与えてくれるのだ。

記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。2012年はだいたい1000冊ちょっとマンガを買ってました。Twitterアカウントは@frog88

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