ネガティブ巨人と上からメガネ、凸凹カップルラブコメは「ラブ★コン」からどう変わったか?——「ハル×キヨ」(オザキアキラ)


高身長女子というのが、今年のプチトレンドのひとつだった。身長181cmの中学生・富士山さんを描く「富士山さんは思春期」(オジロマコト)、ちょっぴり背の高い内気な女の子・卯多子を主人公にした「Stand up!」(山川あいじ)と、立て続けに高身長女子ものが刊行開始。そして、さらに今回取り上げる「ハル×キヨ」(オザキアキラ)だ。

身長が高い女の子というのは定番設定ではある。だけど、これだけ短期間の間に集中して作品が出てくるというのは、ちょっと珍しい。プチブームといって差し支えないだろう。

特に、今年のブームで注目しておきたいのは、名前が上がった3作品ともに、古典的な“高身長女子”とは文脈を少しずつ変えて描いている点だ。

高身長女子が物語的ベタであるのは、単なる身体的特徴というのではなく、コンプレックスの象徴となりやすいからだ。

わかりやすいのは00年代の凸凹恋愛マンガの代表作ともいえる「ラブ★コン」(中原アヤ)。172cmのリサと、156cmの大谷という、この逆身長差カップルの恋物語は、中原一流の明るさもあってそれほど身長についてのコンプレックスが深刻に描かれているわけではない。だが、「巨女」「ミジンコ」という2人の掛け合いも含め、身長差があるというのは、恋愛におけるひとつの心理的障害として機能している。「身長差があってもいいじゃない」というメッセージは、逆にいえば、「身長差は男女をためらわせる理由になる」ということだ。そして、「それを踏まえてもその相手を選ぶ」ということが、その恋の唯一性を強化してくれる。

つまり、“高身長女子”のベタさというのは、コンプレックスと常に密接な関係にあって成立しているのだ。

ところが、「ハル×キヨ」は、そういう文脈とは少しニュアンスが違っているように見える。

身長178cmの主人公・宮本小春は、冒頭から男子に「巨神兵」と揶揄されたりと、身長の高さがネガティブな要素になりがちなことを前提として描いているのは確かだ。だが、小春の場合は、地味で引っ込み思案、自分に自信がないということに本質的なコンプレックスがある。身長の高さは、どちらかというと、「体が大きいのにハートはちっちゃい」というコメディ的なギャップ要素として機能している。本人が気弱そうに立っているだけでも、体格と風貌から妙に恐ろしく見えたりと、コメディ要素として身長の高さが描かれる。

これは、もうひとりの主人公ともいえる峯田清志郎についても同じだ。高校1年生で150cmちょっとという峯田は、「上からメガネ」の異名どおり、身長とは裏腹に自信満々で態度が大きい。その身長差から小春に子ども扱いされるような描写はあっても、本人は自分の身長をコンプレックスにしているようなそぶりも見せない。

だから、「ハル×キヨ」において、身長差は関係を築く上でのハードルとは(少なくとも1巻の段階では)なっていない。むしろ、この体格と性格のギャップは、ふたりの愛らしさを引き立てている。

それは一見普通の身長差ラブコメと同じように見えるが、感情移入のポイントと描かれ方を見ていくと、「ハル×キヨ」が少し別のポジションに立っていることがよくわかる。

ハードルとしての身長差というのは、「あんなチビ、論外だと思ってたのに」という前提で成立する。だが、小春と峯田の関係は、そもそもそこを問題にしていない。ふたりはお互いの身長について、最初からほとんど意識していない。むしろネガティブ思考の小春は、自信家の峯田をある種恐れ、尊敬している。峯田は小春について、身長差などまるで気にせぬ態度をとり続けている。

だから、小春や峯田に感情移入するポイントは、体格面ではなく、性格的な部分に重点が置かれている。凸凹コンビぶりは、感情移入するというよりも、第三者的に愛でるポイントだ。つまり、高身長であるということが、ここでは徹底的に小春の個性であり、魅力として機能しているのだ。

「心優しき巨人」という小春のキャッチフレーズは、その文脈の転換を象徴している。2013年の“高身長女子”は、コンプレックスの装置ではなく、愛すべき個性として描かれているのだ。そういう意味で、今年のブームは、正しく高身長女子ブームといっていいだろう。

(このレビューは第1巻時点のものです)

記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。年間のマンガ購入量はだいたい1000冊ほど。あまり知られていなかったのですが、専門はラブコメ・恋愛マンガ全般です。Twitterアカウントは@frog88

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