「かわいい」以上に「かっこいい」、少女たちによる少年マンガ——「かげきしょうじょ!」(斉木久美子)


魅力を語られれば頭ではわかるけど、体感としてその熱量を理解するのは難しいというジャンルがある。僕にとっては、BLと宝塚だ。このジャンルに関しては、たぶん同じように感じている男性も多いんじゃないかと思う。ほかのジャンル、エンタメコンテンツと比べても、極めてピーキーに女性向けのチューニングがなされている、“THE 女の世界”だと思う。

そういう意味で、宝塚と男性向け雑誌というのは相性がいいとはいいがたい。創刊当初「男女比6:4〜5:5」を狙うと語られていたジャンプ改が「男性向け」かといわれると微妙だが、2013年のメディアガイドを見ても約7割が男性である以上、事実上男性寄り雑誌であることは間違いない。だから、テーマだけでいえば、女性だけの歌劇団を舞台にした「かげきしょうじょ!」(斉木久美子)は、正直ジャンプ改との相性は「どうだろう?」と思っていた。僕は宝塚には若干苦手意識もあったから特に、だ。

けど、結論からいえば、このマッチングは極めて正しかったと思う。

未婚の女性だけで構成された紅華歌劇団と、そこで活躍するスターを育てるための紅華歌劇音楽学校。「かげきしょうじょ!」は、誰がどう見ても宝塚歌劇団をモデルにしたこの劇団とその養成学校を舞台に展開される物語だ。もちろん主人公をはじめ、登場人物は少女がほとんど。練習中のジャージ姿を描いたページですら、華やかさに満ちている。それくらい、出てくる少女たちはまばゆい。

特にヒロインのひとりである長身の15歳、渡辺さらさの笑顔はことさらに輝いている。彼女の天真爛漫さは、はっきりいって嘘くさいくらいで、実際その性格ゆえに作中でも浮きまくり、敵を作る。だけど、それでも目が離せないくらいパワフルな魅力が、さらさにはある。

だけど、じゃあ、歌劇団を目指す少女たちの日常を楽しむ萌え系作品かというと、違う。いかにも少女マンガ的な作品でもない。

人気アイドルグループ・JPX48を脱退して歌劇団を目指すことを決めた奈良田愛と、天衣無縫の天然少女・渡辺さらさの出会いから始まるこの物語は、少女たちを主人公にした少年マンガなのだと思う。タイプの違う2つの才能が出会い、ぶつかりながら、トップを目指す。その骨組みは、そのまま少年マンガの世界だ。

しかも、荒削りの才能であるさらさは、抜群にかっこいい。とりわけしびれるのは、同期や先輩たちの居並ぶなかで、「オスカル様になる」と宣言するシーンだ。歌劇団において、「ベルサイユのばら」のオスカルを演じるということは、歌劇団のトップに君臨することだ。そう告げられたさらさは、ひるむことなく「じゃあ なります!」「さらさはトップになりますよ!!」と笑いながら答える。

無邪気で無鉄砲なその言葉は、作中でも自己言及されるように、「“海賊王”に!!! 俺はなるっ!!!!」というセリフによく似ている。無根拠だけども、強い意志と純粋な情熱に裏打ちされたさらさのセリフは、登場人物たちに、そして読者に勇気を与え、彼女の可能性を信じたい気持ちにさせる。さらさは、「かわいいヒロイン」である以上に、「清々しく、かっこいいヒーロー」なのだ。

女の世界を、少年マンガの遺伝子で描く。なるほど、実にジャンプ改らしくて、ワクワク感に満ちた物語だ。

(このレビューは第1巻時点のものです)

記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。2012年はだいたい1000冊ちょっとマンガを買ってました。Twitterアカウントは@frog88

関連リンク
かげきしょうじょ!/斉木久美子 | ジャンプ改 公式サイト

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