00年代のマンガの大きなトレンドとして、子育てマンガというのがある。実録系のエッセイを中心に、数々のヒット作が生まれた。背景には少子化・核家族化によって自身の出産・子育てが、初めての育児体験という人が多くなったこととか、働きながらの育児という状況の増加、女性作家自体の増加など、いろいろな要因があるんだと思う。
ともあれ、育児はマンガの一ジャンルとしてすっかり定着した感がある。「赤ちゃんのホスト」(丘上あい)も、子育てマンガといえば子育てマンガだ。
本作は、新米保育士の新名楓が認可外保育園に勤め始めるところから始まる……のだが、これから働くというときにいきなり園長が亡くなり、かわりに元ホストの園長の息子が園を継ぐことになる。
この認可外保育園というのが、独身者にはそもそも馴染みがない。周囲の既婚者や報道で託児所や保育園の不足が深刻になっているというのは知っているが、公立や私立以外に認可外なんて仕組みがあること自体全然知らなかった。本作の場合だと、自宅をちょっと改造して営業しているような感じだ。幼稚園と保育園の違いといった基本的な部分から、保育士が預かれる子どもの数や仕組みまで、ウンチクぶくみのいわゆる業界ものとしても丁寧に描かれている。
だが、面白いのは、育児マンガという大枠を持ちながら、実は本作が教師もの的なエッセンスをもっている点だ。
以前別のレビューでも触れたが、教師マンガには学校の常識に別の価値観を持ち込むという役割がある。だから、教師マンガには、ヤンキー先生や超合理主義の先生、熱血とはほど遠い先生など、「先生らしくない何か」を持った教師が登場するヒット作が多い。
「赤ちゃんのホスト」は、いわば保育園版の教師マンガだ。勉強して資格を取り、保育士になった主人公と、元ホストで一見いい加減な新園長は当然ぶつかり合う。だけど、常識外れな新園長は、保育園らしさとは無関係な視点から人を見抜き、問題を解決していく。
そして、そこで成長し、救われていくのは子どもではない。子どもの問題をとおして、親や大人のジレンマを解消していくのが本作なのだ。
「育児で成長するのは親だ」なんていうことがあるが、「赤ちゃんのホスト」は、育児というステージにおける新しい教師マンガだったりするんだと思う。
(このレビューは第1巻時点のものです)
記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。2012年はだいたい1000冊ちょっとマンガを買ってました。Twitterアカウントは@frog88。
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