フランス語のジビエは、狩猟によって捕獲された鳥獣のことらしい。簡単にいえば野性肉のことで、文字どおりグルメな人たちの垂涎の的である。日本にも専門店があるぐらいだから、確たるニーズがあるということだ。食べた経験はないが、うまいらしい。
何でもそうだが、人工モノより天然モノのほうが美味なのは当然といえば当然だ。身近なところでは、ウナギ。生まれて初めてガチの天然ウナギの蒲焼きを食したときには、「今まで食ってたやつは何だったんだ?」な感覚を覚えたものである。それぐらい違う。
さて狩猟である。「山賊ダイアリー」(岡本健太郎)は、岡山県で猟師をする作者の実録マンガ。銃の免許を取り、準備して猟に行き、成功すれば自ら調理して食べる――。その淡々とした日常を、淡々とした筆致で淡々と語る素朴さがいい。
ときには、農家に頼まれてカラスの駆除にも出かける。外来種であるヌートリアを狙ったりもするし、サバイバルの知識も登場する。そんなエピソードをしばらく読み進めるうちに、こちらの頭の中で「自然」や「地球」や「人間」といったキーワードがぐるぐると回り始めていることに気づく。感情的に自然保護うんぬんを語るのは大嫌いだし、語るべき知識もないのだが、ちょっとだけ考えさせられてしまうのだ。
われわれは毎日、他者の命を奪って生活している。それは、ライオンがシマウマを食べたり、シャチがアザラシを食べたりするのと同じ生存本能によるものだ。しかし、自然のない都会で暮らしていると、そんなことはいつか忘却の彼方にすっ飛んでしまう。その点を作者は、「ちょっと待って。違うんじゃないの?」と確認を求めているようだ。
本作で作者は、ジビエの調理法も紹介している。ただし、レシピを提示されたところで材料は得られないのだから、再現するのはほぼ無理。となると、その味わいは作者の感想(パサパサしてるとか歯ごたえがあるとか)を信用するしかないのだが、個人的にはマムシもカラスもやっぱり遠慮したいなあ。ヘタレでゴメン。
(このレビューは第1巻までのものです)
記事:浮田キメラ
幼少時よりのマンガ狂で、
「上手にホラを吹いてくれる作品」が好み。
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