ずいぶん前に、友人の母親に聞いた話がある。彼女はすでに鬼籍に入られたが、生前は競技ダンスの選手だった。もちろんアマチュアではあるけれど、その世界ではわりと名前を知られた存在だった人だ。
そのときの話で驚いたのは、社交ダンスの一部である競技ダンスは、もはやダンスであってダンスではないという部分だった。つまり、“美”を追求していたものが時代とともに変化し、アクロバティックであればあるほど賞賛される“スポーツ”になってしまったのだという。当然、選手はみな若く筋骨隆々のアスリートばかりである。
そんな競技ダンスの世界を描いたのが本作、「ボールルームへようこそ」だ。
主人公の中学生・富士田多々良は、ひょんなきっかけで有名プロダンサーの仙石と知り合う。同じ学校に通う美女・花岡雫が本場イギリスへの留学を目指すほどの選手だったこともあり、多々良は自然とダンスに引き込まれていく――。
と、王道ともいえる設定をたどりながら、アップテンポのビートで物語は進む。このあたりは、まさに現代競技ダンスのあり方とシンクロしたかのようだ(実物を見た経験のない方は、動画サイトなどで一度ご覧になることをオススメします。驚きますぜ)。
前述したように、トップクラスの選手の動きは死ぬほど激しい。見る者にとっては、まったくもって予測不能なほどである。その躍動感やスピード感をマンガにするのは難しいはずだが、作者はデッサンが少々狂おうが何があろうがお構いなしのイキオイで処理する作戦に出た。そして、この作戦はたぶん正解だ。
第1巻の最終ページで、早くも多々良に大きな試練が立ちはだかる。それを乗り越え、次に訪れる関門も乗り越え、やがては雫とともにブラックプール(社交ダンスの聖地)へと向かっていくのだろう。この基本デザインは、甲子園を目指す高校野球マンガとまったく同じである。だって、本作はスポ根マンガなんだから。
(このレビューは第1巻までのものです)
記事:浮田キメラ
幼少時よりのマンガ狂で、
「上手にホラを吹いてくれる作品」が好み。
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