記憶をなくして生まれる、新たな運命やいかに?――「おもいでだま」(荒井ママレ)


生きていると、毎日必ず何かが起きる。楽しい出来事もあれば、そうでない出来事もある。私の個人的体感データでは、絶対的に後者のケースが多いと思うのだが、この比率が逆という幸せ者もいるのだろうか。

でも、もう大丈夫。嫌なことがあったら、MSCという会社のお世話になればいい。「メモリー・セーブ・キャンディー」で、嫌な記憶を脳からごっそり削除してくれるのだ。保存もできるから後で元に戻すことも可能だし、第三者への移植も可能。価格は、たった10万円――。

「おもいでだま」(荒井ママレ)は、そんな不思議なキャンディをめぐるオムニバス連作だ。1話ごとに、MSCを利用する顧客を主人公に、記憶を消すことについての物語が展開されていく。

面白いのは、オムニバスであると同時に、長編ミステリー的にもなっている点。主人公は毎回変わっていくが、そこにはいつもMSC社の椎名ミオという社員がいる。美人である。彼女自身もメモリー・セーブ・キャンディーのヘビーユーザーで、巣から落ちた鳥のヒナを踏んでしまった記憶さえも取り除こうとするほどだ。

そんな彼女のもとには、顧客だけでなく、MSC社に疑問をもつ週刊誌記者なども訪れる。「嫌な記憶を取り除いていたら人は学べない。未成熟な大人が増えるのでは?」——ミオはそんな直球の問いかけを、当然ながら否定するが、何やら秘密もあるようで……といったところが第1巻のあらまし。

SFというべきか、ヒューマンドラマというべきか、その両方というべきか、とにかく風変わりな印象を受ける作品だ。基本的には、MSC社を訪れる客を狂言回しにして、「なぜ記憶をなくしたいのか」が語られるのだが、各人それぞれに事情があるから一筋縄ではいかない。遺言代わりに使う富豪もいれば、アルコール依存の予防にするアイドルもいる。そして話は意外なほうにコロンと転んで、余韻と含みをもたせた形での着地を見せるのだ。

この物語は「記憶」がテーマのはずだが、どうやらそれは表面だけのこと。本当のテーマは、別のところにありそうだ。

誰にも、思い出したくない記憶はある。私にもある。毎日のようにある。あーそうだ、今しょっぱいレビュー書いちゃったから、MSC行って記憶消してくるわ。

(このレビューは第1巻時点のものです)

記事:浮田キメラ
幼少時よりのマンガ狂で、少年ジャンプ創刊号をリアルタイムで買った経験もある。
「上手にホラを吹いてくれる作品」が好み。

関連リンク
おもいでだま 1 | ビッグ コミックス スペシャル | ビッグ コミックス系 | コミックス | 小学館

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