少女マンガだな、と思う。「魔女と猫の話」(四宮しの)は、少女マンガの恋ではない部分の遺伝子をしっかりと受け継いでいる。いや、もしかしたら、恋の物語といってもいいかもしれない。
本作の掲載誌は「ねこぱんち」という猫専門マンガ誌。だから、もちろんタイトルにも中身にも猫が登場している。だけど、いわゆる猫マンガではない。
魔法学校に通う13歳の少女たちが、守護霊の猫と出会う物語である本作は、少女たちの成長譚だ。呼び出した猫とは一生のパートナーとなる。そして、猫を呼び出すことは、魔女として大人になる第一歩、一種の通過儀礼でもあるのだ。
魔女と猫というファンタジックな設定に目がくらみがちだが、彼女たちの出会いは「他者との出会い」だ。ここでいう「他者」というのは、単に他人のことではない。「ままならない相手、異質で理解できない部分を持った相手」というような意味だ。
少女たちは、13歳の誕生日にいろんな思いを胸に猫を呼び出す。祖母とその猫に憧れて、優しくて賢い黒猫を願うすず、普通の少女でいたいのに目立つ黒猫がパートナーとなってしまったチセ、乱暴な猫と出会ってしまったニナ……。彼女たちはみな、期待と不安を胸に猫を呼び出し、そして、多かれ少なかれ自分の理想と実際に出てきた猫とのギャップに悩むことになる。だけど、一度呼び出された猫は替えることはできない。彼女たちは、それぞれの猫とともに、魔女として生きていかなければならない。
それは、友だちとも家族とも違う関係。猫は少女たちにとって初めての巨大な「他者=ままならぬ他人・ままならぬ世界」なのだ。
物語のなかで、小さな魔女たちはやがて自分の猫を受け入れていく。わからない相手を、気が合わないと思っていた相手を理解しようとし、そのまま受け止めようとし始める。他者を他者のまま認めるという、思春期的な成長モチーフがそこにはある。
そして、面白いのは、そうして猫を受け入れることが、同時に自分自身を受け入れることにもつながっている点だ。
他人を受け入れるということは、自分を省みることでもある。自分の考え方や行動を、相手の立場からとらえ直す、自分に対する他者の意見を受け入れてみる……他者を受け入れるというのは、そういうプロセスと一体になった行為だ。だから、猫と出会い、彼らを受け入れた少女たちは、自分のコンプレックスや劣等感を克服し、自分自身とも和解していく。
「猫と魔女の話」は、少女たちのそんな姿を繊細に優しく描いている。恋の話ではないけれど、間違いなく少女の物語であり、そして、猫という他者との和解は、恋愛における成長モチーフともよく似ている。だから、この作品はものすごく「少女マンガ」なのだ。
(本作は1巻完結です)
記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。2012年の年間マンガ購入数が1000冊を超えてました。読むナビさんでオススメ紹介を始めてます。Twitterアカウントは@frog88。
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少年画報社 / ねこぱんち
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