マンガ描いてるシーンより下着シーンの方が多い…だと……! 今年一番危険な“ゲスい”「バクマン。」——「俺とSEXすれば売れる」(香穂)


マンガには毎年ブームがある。今年だと、去年刊行開始された「ハイキュー!!」(古舘春一)からの流れか、「不沈アタッカー」(粂田晃宏 )、「神様のバレー」(原作:渡辺ツルヤ/画:西崎泰正)とバレーボールマンガがジワリと存在感を増している。

そんな今年のトレンドジャンルのひとつが「マンガ業界マンガ」だ。編集だけでなく、出版社の営業や書店の姿まで迫る熱血お仕事系の「重版出来!!」(松田奈緒子)を筆頭に、ブラックネタ満載の出版社擬人化四コマ「飯田橋のふたばちゃん」(原作:横山了一/作画:加藤マユミ)など、マンガ家自身でなく、出版業界全般をテーマにした尖った作品が続々と刊行されている。

で、そんなマンガ業界マンガのなかでも、リーサル・ウェポンと呼ぶべき作品が「俺とSEXすれば売れる」(香穂)だ。まぁ、もうタイトルからしてヤバい。過去にも「ちんまん―中村珍短編集」(中村珍)とか、「女の穴」(ふみふみこ)とか、店頭で探していても書店員さんにタイトルを告げられない作品は数多くあったが、今年に関してはこの作品が「声に出して読めないマンガ」No.1といっていいだろう。相手が知っていればまだいいけど、知らなかったらセクハラ客扱いされてもおかしくない。怖い。これはもはやマンガでなく兵器だ。

タイトルからしてこうなので、内容はお察しの通り。若手マンガ家の香穂が、過去に出会ったセクハラ編集者やゲスマンガ家の思い出を語るというもの。冒頭から「僕とヤッたらデビュー出来る」とか持ちかける外道編集者が現れたりする。こんな酷いまんが道見たことない。ペン持ってるシーンより下着のシーンの方が多いからな!! 汚い「バクマン。」や!!

もちろん「※この物語はフィクションであり……」という例の決まり文句が入ってはいるのだけど、いわなきゃいいのに帯に「ほぼ実話です。」とか書くもんだから、もう。これがもう。出版業界の端っこにいる身としてはコメントしづらい。おっかないことこの上ない。

一応、出版業界の名誉のためにいっておけば、たいていの編集者はまともだ。少なくとも、僕が関わった限りではごくごくマジメで普通の人が多い。というか、そうでなければ人間関係商売であるところの編集者というのは続かないと思う。そういう意味で、香穂の「引きの強さ」というのは飛び抜けてるといっていいだろう。だから、出版業界関係者の間でも話題になっているのだ(特に飲み会になると話題に上がる)。

そんな感じで、僕としては、やんわりと誰に向けてなのかわからないフォローを入れるのが精一杯だ。もうこれ以上書くと、不要な地雷を踏みそうな気がするので、書きたくない。これ以上、知りたい人はぜひ読んでいただければと思う。

とりあえず、「ほぼ実話」ということなので、ネタに限りはあるだろうけれども、最後は「(掲載媒体である)ぜにょんの担当編集者に、イケメンで描けと強要された」とかいうネタで落としてくれるに違いないと期待している。

(このレビューは第1巻時点のものです)

記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。2012年はだいたい1000冊ちょっとマンガを買ってました。Twitterアカウントは@frog88

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俺とSEXすれば売れる 第1話 はじめての担当さん – 香穂 – Yahoo!ブックストア

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