【書店ぶらり旅Vol.01(後編)】 異空間に飛ばされるマンガコーナー――あゆみBOOKS早稲田店


気になる書店をぶらりと巡る「書店ぶらり旅」。小規模ながら“濃い”あゆみBOOKS早稲田店を訪ねる第1回の後編は、いよいよマンガコーナーをレポートします。

今回のぶらりメンバー

小林聖(@frog88小林聖(@frog88)

ネルヤ編集長兼フリーライター。年間マンガ購入数は約750冊。言い出しっぺのくせに取材当日20分遅れで登場。反省中。

catu(@catucatucatu(@catucatu)

出版業界の端っこで働くマンガ好き。今回の取材時、「12時集合で」と約束して12時に来たのはこの人だけという、今回のメンバーの良心。

ランジェ(@ranjyeランジェ(@ranjye)

都内某書店でアルバイト中。年間マンガ購入数は約1000冊。以前プライベートで小林とあゆみBOOKS早稲田店に来店した際は、盛り上がりすぎて2時間以上滞在。しかも、帰り際に再度来店してまた2時間近く話し込んだ。

■「本当は全部POP付けたい」(太田)

さて、新刊コーナーに続いて、いよいよ店内突き当たりのマンガコーナーをチェック。

案内してくれるのはあゆみBOOKS早稲田店・コミック担当の太田和成さん。昨年は「このマンガがすごい!」「このマンガを読め!」などのマンガ年間ランキング企画の投票者になっているほか、ツブヤ大学ManGa講座などのイベントにも参加。この日は取材中に出版社から新しいサイン色紙が届き、思わずニンマリしてました。

案内してくれるのはあゆみBOOKS早稲田店・コミック担当の太田和成さん。昨年は「このマンガがすごい!」「このマンガを読め!」などのマンガ年間ランキング企画の投票者になっているほか、ツブヤ大学ManGa講座などのイベントにも参加。この日は取材中に出版社から新しいサイン色紙が届き、思わずニンマリしてました。

「あの一角はギュッと空気が濃くなってる気がする」(ランジェ)、「異空間に飛ばされる感じだよね(笑)」(catu)という、およそ書店を形容するときに使うことのない単語が飛び交う中踏み入れたそのコーナーがこちら。

マンガコーナーは店舗突き当たり。

マンガコーナーは店舗突き当たり。

写真でどれくらいこの密度が伝わるでしょうか。

写真でどれくらいこの密度が伝わるでしょうか。

棚中POPだらけです。どこ見てもPOP。どこまでもPOP。

棚中POPだらけです。どこ見てもPOP。どこまでもPOP。

平台を覆い尽くすように乱立するPOPの山。コミック担当の太田さんは「伝統的に情報量が多い店なんですよね」とかさらっと言っていましたが、多いどころじゃない。一種異様な光景です。棚全体から「読んでくれー!!」と訴えてられているような気持ちになります。

しかも、POPの総量が多いだけじゃありません。ものによっては1作品に3つも4つもPOPがついているものも。

1巻はこれまでに400冊以上売ったという「刻刻」。この1作だけでもこれだけのPOPが。手作りの時計付きPOPなど、ひとつひとつも凝っています。さらに本棚の上には堀尾省太先生のサイン色紙も飾られています。前々からすごいと思っていましたが、改めて数えてみて「やっぱりおかしい」ということがわかりました。

1巻はこれまでに400冊以上売ったという「刻刻」。この1作だけでもこれだけのPOPが。手作りの時計付きPOPなど、ひとつひとつも凝っています。さらに本棚の上には堀尾省太先生のサイン色紙も飾られています。前々からすごいと思っていましたが、改めて数えてみて「やっぱりおかしい」ということがわかりました。

余談ですが、Twitterユーザーのオススメコメントが掲載されている拡販ポスターには本日のぶらりメンバー、catuさんの名前も。一時期catuさんといったら講談社の回し者かと思うくらい「刻刻」プッシュしてましたからね。「講談社からお金貰ってんですか?」とか聞かれたそうです。

余談ですが、Twitterユーザーのオススメコメントが掲載されている拡販ポスターには本日のぶらりメンバー、catuさんの名前も。一時期catuさんといったら講談社の回し者かと思うくらい「刻刻」プッシュしてましたからね。「講談社からお金貰ってんですか?」とか聞かれたそうです。

今回のぶらりメンバーは全員過去に何度かこのお店に来たことがあるので、どういうところか知ってはいたのですが、やっぱり改めて見ると圧巻。気圧されるような棚です。

と我々がそんなことを思っていたら、太田さんがボソッと「いやー、なかなか時間がなくてできてないんですけど、本当は並んでる作品全部にPOP付けたいんですけどね」と一言。うん、太田さん、その棚はもう売り場というよりレビュー集ですよ。

でも、並んでいる作品には全部理由があるそうですからね。実際聞いていったら全部オススメコメントしてもらえそうです。

■「マンホール」はあゆみBOOKSのために刷っている疑惑浮上

POPの量だけでなく、ラインナップもさすがのこだわりぶり。たとえば、平台には「マンホール」(筒井哲也)の姿が。

「マンホール」全3巻(筒井哲也)。SFバイオホラーの傑作。「この辺りまでみんな読んでますよ」という刷り込みをするために、わざと途中の巻だけ並べる量を少なくする書店のテクニックも(一部書店では)あるようですが、2巻の減り具合はリアルに売れて在庫が足りなくなってるそうです。

「マンホール」全3巻(筒井哲也)。SFバイオホラーの傑作。「この辺りまでみんな読んでますよ」という刷り込みをするために、わざと途中の巻だけ並べる量を少なくする書店のテクニックも(一部書店では)あるようですが、2巻の減り具合はリアルに売れて在庫が足りなくなってるそうです。

これ、個人的にも好きな作品なのですが、完結巻が出たのは06年。正直、マンガの場合、メディアミックスなどのタイミングでもない限り、6年も前の作品が平台に並び続けるのは非常に珍しいです。しかも、棚に並んでいる数を見てもらえばわかるとおり、実際売れている。あゆみBOOKSは最近荻窪にも新店がオープンしたのですが、開店直後に尋ねたところ、荻窪店でも平積みされていました。太田さんは冗談っぽく「あゆみBOOKSのために重版してるんじゃないかって感じですね」といっていましたが、実際あゆみBOOKS独自のロングセラーなんじゃないかと思います。

太田さんが去年「このマンガがすごい!」などでも名前を挙げていた「がらくたストリート」(山田穣)もしっかり展開中。これもなかなか置いているお店が少なく、手に入れるのにちょっと苦労したなぁ。

太田さんが去年「このマンガがすごい!」などでも名前を挙げていた「がらくたストリート」(山田穣)もしっかり展開中。これもなかなか置いているお店が少なく、手に入れるのにちょっと苦労したなぁ。

ちなみに「がらくたストリート」にはツンデレPOPがついてました。み、みんなに読んで欲しいわけじゃないんだからね!!

ちなみに「がらくたストリート」にはツンデレPOPがついてました。み、みんなに読んで欲しいわけじゃないんだからね!!

試し読み小冊子を置いている作品もありますが、ここでは実際の単行本を見本として一部読めるようにしてあるものが目立ちます。ぶらりメンバーも口を揃えて「小冊子より単行本の見本の方が手に取ることが多いよね」といっており、やはり見本の方が効果あるのかなぁなんてことを話しあったりしました。

試し読み小冊子を置いている作品もありますが、ここでは実際の単行本を見本として一部読めるようにしてあるものが目立ちます。ぶらりメンバーも口を揃えて「小冊子より単行本の見本の方が手に取ることが多いよね」といっており、やはり見本の方が効果あるのかなぁなんてことを話しあったりしました。

この辺りは「プッシュしていてかつ売れる作品を『売れる』に含めるとしたら、売れるから積んでいる作品が3割、プッシュしたいから積んでいる作品が7割という感じ」と、やはり相当太田さんの好みや思い入れが強い配置のようです。その熱意が棚を見るだけで実際に伝わってくるから、この異常に“濃い”という印象になるんでしょうね。catuさんは取材後「あの棚、箸休めがないですよ!」と語っていましたが、実際POPの有無にかかわらず「全部オススメ!!」という雰囲気です。

■棚刺しは異形の2段組

平台の情報量もすごいですが、棚も限られたスペースを最大限活かすための工夫が。なんとこのお店の棚刺し(背表紙を見せる状態で棚に並んでいるもの)、前後2段組になっています。

自宅でもマネしたい、前後2段の棚刺し。

自宅でもマネしたい、前後2段の棚刺し。

普通に前後2段にすると当然後ろに入っているものが見えなくなってしまうので、後列の作品は底上げして少しだけ高くしてあります。確かにこれなら後ろに何が置いてあるか、何となくわかりますね。

ただ、それでももともとのスペースが少ないので、どうしても巻数が多い作品をすべて入れることが難しく、一部だけになるものも。こういう作品は1巻から数冊でなく、新しい巻を何冊か置くようにしているようです。1巻から途中まで置くのと、途中から最新刊まで置くの、どちらが本当にいいかは太田さんもぶらりメンバーも結論は出せませんでした。うーん、本当にどっちがいいのか……ほかの書店さんにも聞いてみたいですね。

コミック文庫もなかなかの量。この辺りは普通の単行本と少し違った動き方をするそうで、たとえば最近だとパチンコでタイアップ台が出た「RAVE」(真島ヒロ)のまとめ買いがあったりしたそうです。

コミック文庫の棚。言われてみると確かに通常の単行本の棚に比べて棚が空いており、まとめ買いする人の多さがわかる。

コミック文庫の棚。言われてみると確かに通常の単行本の棚に比べて棚が空いており、まとめ買いする人の多さがわかる。

そのほか、いくつかの書店さんが共同で制作しているフリーペーパー「まんきき」も配布中。谷川史子先生など作家さんのインタビューを掲載するなど、非常に豪華な内容だったりします。

「まんきき」は各店舗でプリントアウトして配布しているということで、ランジェさんは品切れになっている号をその場でプリントして貰っていました。

「まんきき」は各店舗でプリントアウトして配布しているということで、ランジェさんは品切れになっている号をその場でプリントして貰っていました。

■補充じゃないです、買い物です(小林)

たっぷりお店を拝見し尽くしたところで、最後はお買い物タイム。各々、取材を忘れてプライベートなショッピングを楽しむことに。

で、さっそく新刊コーナーをチェックした結果……

小林はこういう状態に。

「店員さん、補充ですか?」と突っ込まれましたが、悪いのは僕じゃなくて、前日発売の新刊が多すぎることだと思います。

「店員さん、補充ですか?」と突っ込まれましたが、悪いのは僕じゃなくて、前日発売の新刊が多すぎることだと思います。

「その量はおかしい」という感じでぶらりメンバーにまで笑われたわけですが、僕は知っています。ランジェさんだって昨日新刊を買ってあるからこうならないだけで、買った量は大して違わないはずだ……! とはいえ、さすがに量が多くて身動きが取れないので、このあと一時レジで預かってもらいました。

取材と言いつつ、やはりマンガ好きが集まると取材以外の話題も尽きず。「『孤独のグルメ』のオマージュで『孤独のマンガ読み』とかやりたいですね」「『こんなマンガもあるのか……』とか『しまった、ラブコメかぶりになってしまった』とかいう感じですか」「書店で万引き犯にアームロックとかするんですね」という非常にくだらない話で盛り上がりました。全員いい大人です。

取材と言いつつ、やはりマンガ好きが集まると取材以外の話題も尽きず。「『孤独のグルメ』のオマージュで『孤独のマンガ読み』とかやりたいですね」「『こんなマンガもあるのか……』とか『しまった、ラブコメかぶりになってしまった』とかいう感じですか」「書店で万引き犯にアームロックとかするんですね」という非常にくだらない話で盛り上がりました。全員いい大人です。

そして、お会計。最近都内ではポイントカードやスタンプカードがある書店さんも多くなっていますが、あゆみBOOKSさんも一部店舗でスタンプカードを導入しています。なのですが、このお店のスタンプカードがまたすごい。

書店の場合、「購入金額の1%をポイントとして還元」とか「500円で1スタンプ」といったシステムが多いのですが、あゆみBOOKSのスタンプカードはなんと「3000円ごとに1スタンプ」。10スタンプで500円割引になりますが、普通のお客さんだとたぶんスタンプが貯まりきることなく財布のこやしになると思います。こんな強気のスタンプカード、見たことありません(笑)。ちょっとしたレアカードですので、お近くにスタンプカード導入店がある方はぜひまとめ買いでもして手に入れてみてください。

ちなみに。

小林、本日のお会計。

小林、本日のお会計。

僕はこの日、一気に5スタンプ付きました。資金も尽きました。

なかなかかわいいデザインのあゆみBOOKSスタンプカード。高円寺店、杉並店、早稲田店の3店舗で利用可能とのこと。

なかなかかわいいデザインのあゆみBOOKSスタンプカード。高円寺店、杉並店、早稲田店の3店舗で利用可能とのこと。

なお、このほかあゆみBOOKS早稲田店さんでは5000円お買い上げで、店舗2階にある喫茶店シャノアールで使えるドリンク無料券が貰えます。ぶらりメンバーもさっそく取材後、シャノアールで一休みしました。

■「目的がないときに行って楽しめる店だよね」(catu

取材後改めてぶらりメンバーで話をしたが、やはり出てくるのは「すごかったなー」という言葉。

catuさんが「目的がないときに行きたい店だよね」と言っていましたが、確かに店舗面積的にどうしても置けるマンガの数は限られるので、「ここに行けば欲しいマンガがなんでも揃う」というお店ではありません。が、担当者が「全部オススメです!」と断言できる強烈なセレクトショップのような棚作りは、魔力としか言いようのないものがあります。本当、行くと知らなかった面白い作品に出会えるんですよね。「こんなお店、近所に欲しいよねぇ」と話しながら帰路につきました。

というわけで、2回に渡ってお送りしたあゆみBOOKS早稲田店ぶらりレポ、記事では割とササッとご紹介していますが、実は約3時間も店舗に居座って話し込んでおり、最終的に太田さんからも「もう蹂躙され尽くした気分です」というコメントをいただきました。ぶらり冥利に尽きますが、営業のお邪魔になるので、次回からはもう少しコンパクトにまとめたいと思っております。

■店舗データ

あゆみBOOKS早稲田店
住所 東京都新宿区馬場下町62-4 芝田ビル1F
電話番号 03-3203-7123
営業時間 8:00~25:00
URL http://www.ayumibooks.jp/
MAP あゆみBOOKS早稲田店

※掲載した店舗情報はすべて2012年3月24日時点のものです。

記事:小林聖
ネルヤ編集長。フリーライター。Twitterアカウントは@frog88

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