さらりと加齢を引き受ける、新しいアラサー・アラフォーのバイブル――「君の天井は僕の床」アラサー座談会(前編)


来年2013年にデビュー20周年を迎えるマンガ家・鴨居まさね。そんな彼女の最新シリーズ「君の天井は僕の床」は、40代のデザイナー“トリさん”こと鳥田マリと、彼女と共同でオフィスを構える30代の“ウシちゃん”こと潮田茅子など、アラサー、アラフォーの生活と恋愛を描いている。

晩婚化、おひとり様ブームを受けて、物語の世界でもアラサーの恋愛を描くものは着実にふえているが、「君天」はそのなかでもとりわけ生々しく、かつ幸福な物語だ。

決して派手なドラマを描いているわけではない本作が、なぜ30代にとってここまで魅力的で、説得力を持っているのか? 「34歳無職さん」座談会に続き、30代の男女3人が集まり、その秘密をじっくり語り合った。

アラサー座談会メンバー

小林聖(@frog88)

小林聖(@frog88:ネルヤ編集長兼フリーライター。31歳独身。

いとうきょうこ@itohkyoko):フリーライターとして働く30代女性。独身。

下北沢三省堂 コミック担当usako@simkit_sanseido):下北沢駅北口のピーコック3階にある下北沢三省堂に勤務する30代書店員。女性、既婚。

■“妻”でも“母”でもない40代をどう描くか?

小林 いとうさんは、「君の天井は僕の床」が初めて読んだ鴨居まさね作品ということですけど、読んでみてどうでした?

いとう まずタイトルが面白そうだなと思って手に取ったんですね。40代の話だって聞いていたから、けっこう肩肘張って読み始めたんです。加齢を描くっていうと、やっぱり重い話になるじゃないですか。でも、「君天」の加齢ってすごくさらっと描かれている。最初にいわれてなかったら、40代と加齢っていうテーマを孕んでいることにすら気付かずに読んでたと思うんです。

小林 僕自身、「君天」については、加齢って切り口でレビューを書いていて、そこがすごく重要なポイントだと思ってるんですけど、作品自体は明るくてキュンとなる恋愛マンガなんですよね。「加齢!」って思っていると拍子抜けするかも。

いとう そう。でも、ちゃんと独身アラフォー、アラサーのモデルケースが描かれている。第1話の冒頭から、ニコニコしながら老眼鏡を買った話をしているわけですから。これ、すごいですよね。肩に力を入れずに年齢的なテーマが組み込まれている。これを読んで、自分が加齢って問題に対してすごく肩肘張ってたことに気付かされました。

参加者は単行本を持ち寄ってトーク。「君天」以外の鴨居作品も。

usako 私にとっての“引き”もやっぱり年齢のことですね。40歳を超えてるキャラクターが主人公の少女マンガって、たいてい主婦モノか、不倫モノになるから、純粋に普通の恋愛に特化した作品って、ほとんどない。アラサー作品は増えてるけど、たいてい主人公は29歳とかその辺。30歳超えてても30代前半でしょ? 35歳以上、40歳以上っていうのはほかに思いつかないです。

いとう 30代前半って、まわりが結婚して子どもを産んだりしていて、自分もギリギリ結婚に滑り込みたいってすごく意識する年齢ですよね。

小林 実際“おひとり様”系の作品も、結婚っていう部分にすごくスポットが当てられているものが多い。レビューでも書きましたけど、30歳を超えたあたりの女性って、物語としては妻か、母をやるしかない。独身で年を重ねるモデルケースがないんですよね。だから、独身の人はみんな“未婚”っていうくくりになって、20代と同じように“女子”って生き方を続けるしかなくなってしまう。なんというか、加齢に対してすごく窮屈な状況だと思うんです。

usako 30代、40代くらいの女性が何を読んでいるかっていうと、店頭で見ているとBLとかなんです。今さら若い子の話を読みたいわけじゃないんだけど、かといって不倫や主婦系の話を読む気にもならない。だから、いろんな枠組みを取っ払って“恋愛”を楽しめるBLに流れてるんじゃないかと思うんです。「君天」ってそういう人たちにもっと読んでもらいたいタイトルなんですよね。

小林 この作品って、年齢にも結婚にも気負いがない。1巻の帯を見ても、大きく「もどかしすぎです。この恋愛!!」って入ってるだけで、年齢のこととか一切書いてないんです。そこをフックにした物語作りになっていないんですよ。

■ときめきが主食でなくなった世代の恋愛

小林 ただ、年齢をフックにしてはいないけど、明らかに若い人の恋愛ものとは違うんですよね。すごく生活ベースというか……恋愛ドラマが中心の話じゃない。それぞれが恋愛とは無関係な生活を持っていて、そこを中心に、恋愛要素が入ってくる感じになってる。読み物としては、アラフォーのライフマンガに近い印象じゃないですか? それってすごく自分の実感に近くて。恋愛的な話って、あるにはあっても、この年になると自分のど真ん中にはならないでしょ?

いとう 確かに恋愛が中心にはならないですよね。ちょっとときめきみたいなものがあっても、仕事や生活が基本にある。

usako 本人より先にまわりが盛り上がる感じがリアルだと思うんです。たとえば、作中でトリさんがいい関係になりかけの本間さんに腕時計を贈るエピソードがあるでしょ? で、腕時計の見えないところにコッソリメッセージを書き込むシーンで、「もっとハートマーク入れようよ」とかほかの人に言われて、困惑しながらハートを書き入れるじゃないですか。恋愛が嫌いなわけじゃないし、素敵だとは思っているんだけど、若い頃みたいにキラキラした何かじゃなくて、まわりから“やいのやいの”いわれて、ようやく腰が上がる感じにリアルさを感じるんですよね。煽ってくれる周りの人間がいてこそ成立する大人の恋愛というか。

小林 学生の頃とかって、みんな何かしら恋愛の話があるから、ほかの人の話でそんなに盛り上がるっていうんでもないけど、今になると逆に新鮮ですもんね、恋愛って(笑)。同世代の大半は結婚したりしてるから、「彼女ができた」なんて話、だんだん少なくなってくる。かといって、それが自分の話だと、ちょっとめんどくささもあるんですよね。今の自分の生活に恋愛が組み込まれるのって、労力も使うわけだし。楽しいことではあるんだけど、ある程度重いタスクでもあるっていう感覚があるんですよね。

いとう 個人的な話をすれば、私、若いときはけっこうロマンチストで突っ走るほうだったんです。でも、今の年になると、誰か好きな人ができても、たとえばその人を追って東京を離れられるかっていわれると「うーん……」ってなっちゃう。仕事もあるし、今の生活もあるわけだから。枯れたというより、ときめきとか「好き」っていう気持ちが主食じゃなくおやつなんだってことを身をもって知ってしまったんですよね。そういう主食じゃないノリが描かれていて、それでちゃんと物語として面白くできている。

小林 若い人の恋愛ドラマって、カルビなんですよ。

いとう え、どういうことですか。全然わかんない(笑)。

小林 いや、こう、脂がのっているというか、感情部分が濃いでしょ?

usako ああ、キラキラした感じが。

小林 そうそう。ちょっとすれ違っただけで、みんな泣き出しちゃうような(笑)。それはそれで面白いんだけど、実際の自分の感覚とは離れちゃっているし、大量には食べられない。「君天」はいわばロースみたいな感じで、脂ぎった部分が抜けてる。でも、物足りないわけじゃなくて、それがちょうどいいんですよね。

(後編はこちら

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著者: 鴨居 まさね

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出版日: 2009-06-19

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ページ数: 203

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記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。今年は取材でたくさんクリスマスイルミネーションを見ました。男2人で。Twitterアカウントは@frog88

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鴨居まさねの具
君の天井は僕の床 (kimi_ten)(Twitter)

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