パステルカラーのおしゃれ系カバーに、「学べる愛人の作り方」という帯、おそらく「不倫・自慢」とかけているであろう「フリンジマン」というタイトル。これはまたちょっと大人系の恋愛マンガが出てきたのかなーと思って手に取った。結果、完全に騙された。
正確には、騙されたわけではない。不倫の話だし、カバーに描かれたキャラも作中の主要人物だ。嘘は決して書いてない。
が、「フリンジマン」(青木U平)のカバーを見て、まさかバカマンガだとは思わないだろう。
ページをめくれば、冒頭から冴えない男たちが麻雀しながら、愛人の作り方について真剣に議論するというところから始まる。で、最初の疑問が「(愛人になって欲しい人に)どうやって告白すんの?」「『愛人になってください』とでもいうのか?」。
もう入り口から「あ、こいつら、愛人とか無理だな」感がビンビンあふれ出ている。カバーと帯を見たときに感じた「あー、何かこう、アラサーのヒリヒリしちゃう感じの不倫マンガかなぁ」というイメージとはほぼ真逆。一流の詐欺師は嘘をつかずに人を騙すというけれど、そのお手本みたいなカバーだ。
そもそも、この「フリンジマン」(青木U平)、買ってから気づいたのだけれども、掲載がヤンマガ(ヤングマガジン)なのだ。この時点でかなり予想外だ。カバー見ただけだと、どう見てもヤンマガ作品ではない。祥伝社の判型小さいシリーズか、マッグガーデン(のEDENあたり)のコミックスだろっていうたたずまい。百歩譲って、講談社ならアフタヌーン作品のカバーだろ、これ。パステルカラー使うなんて、ヤンマガさんらしくない!!
そして、カバーに描かれた美女。これがまたヤンマガらしくない、読モ系モテタイプなのだ。ヤンマガの正しいヒロインというのは、基本的に「グラビアアイドル」だ。おっぱいが大きくて、エッチな感じがしないといけない。色っぽいのでなく、エッチというのがポイントだ。だから、着るのは当然水着だ。冬だろうが水着を着てこそヤンマガのヒロインだ。どうしてもダメなら、制服かナース服あたり。それがヤンマガだ(※個人の感想です)。そこから考えれば、「フリンジマン」はヒロインからしてヤンマガの匂いがしていない。どうなってるんだ!!
と、「※個人の感想です」という内容を勢いで書いてしまったのだけれども、実際、「フリンジマン」は設定からしてヤンマガらしくない作品だ。不倫というのは、当然ながら結婚した人の問題だ。ヤンマガは掲載作の傾向としても、もう少し若い、未婚の男性読者がメインターゲットという印象が強い。あえて言葉を選ばずにいうなら、若干の童貞臭さがヤンマガの魅力なのだ。そういう層に、不倫というテーマはちょっと一足飛び過ぎる。
だが、読んでみると、これが案外ヤンマガっぽいのだ。リアル愛人と話をする回で、「女の人は胸の谷間をチラ見されてるのに気づいているのか」について激論してみたり、やたら「シマコー(島耕作)」を参考文献にしたりという、頭のわるい展開のオンパレード。
そして、「挨拶の後に名前を呼ぶ女は愛人の原石」といった独自理論、時折織り交ぜられる「カクテルパーティー効果」などの心理学うんちくなど、妙に説得力があるけど、冷静に考えると大変うさんくさいロジックの持ってきかた。本当か嘘かというのともはや無関係に、「信じたい……!」と強く思わせるそのロジックは、往年のホットドッグ・プレスを想起させるパワーがある。
そう、つまり、「フリンジマン」は、おしゃれな装丁と「不倫」という大人向けのテーマで包んではいるのだが、バリバリに童貞力の高い作品なのだ。というか、腕に当たってるおっぱいの感触について「これは未知の領域‥‥新大陸アメリカ‥ッ!!!」とか言い出す妻帯者がいるか、バカ。いても、それはもうアレだ。扱いとして童貞でいい。
そんなわけで、うっかり丸の内のOL(見たことないけど実在するの?)が手に取ってしまいそうなおしゃれ装丁の本作だが、中身は我々頭のわるい童貞層向けの作品なので、カバーに騙されることなく、ぜひ手にとって欲しいと思う次第だ。
(このレビューは第1巻時点のものです)
記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。年間のマンガ購入量はだいたい1000冊ほど。ネルヤ編集部はバカマンガを応援しております。Twitterアカウントは@frog88。
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