身長181cmの巨大ヒロイン、その正体は“究極の少女”——「富士山さんは思春期」(オジロマコト)


身長差カップル、背の高い女性と背の低い男性の組み合わせというのは、物語性のある組み合わせだ。お互いが自身のコンプレックスを刺激する存在でありながら、それゆえにコンプレックスを乗り越えさせてくれる存在でもある。自分よりも背が高い・低い存在を求めてコンプレックスから目を背けるのでなく、コンプレックスの根源を愛し、承認してくれる存在にもなり得るからだ。

じゃあ、身長181cmのヒロイン・富士山さんと、160cmの上場くんの中学生カップルを描いた「富士山さんは思春期」(オジロマコト)もそういう身長差カップル作品かというと、実は全然違う。確かに身長差20cmというのは大きいのだけれども、この作品はむしろ、徹底して高身長ヒロイン・富士山さんの魅力を描くことに力点が置かれている。

高身長ヒロインの魅力というと、どうしてもフェティッシュな描かれ方を想像してしまうし、実際そういう部分もある。しかし、富士山さんの本質的な魅力というのは、もっと王道な部分にある。富士山さんは、究極の「少女」なのだ。

中学2年生で181cmの富士山さんは、身体的には大人顔負けの成長ぶりだ。いわゆる“発育”もいい。だけど、中身はというとむしろ同級生よりも子ども。ボーイッシュな小学生よろしく男子を蹴り飛ばしてみたり、制服の下に水着を着込んでるからって無防備にシャツを脱いでみたりと、自分自身のセクシャルさに対して無自覚なのだ。

「少女」というのは「大人と子どもの中間点」であり、「子ども」という自己認識と、「女性」として認識する他者の視線が交錯する時期を指す。だから、自分のセクシャリティを自覚し、受け入れたとき、少女の時代は終わり、大人の女性へとステージが変わっていく。身体的に“女性”でありながら、そのセクシャリティを無自覚な富士山さんは、まさに「少女」そのものだ。

ちょっぴりエッチな気持ちと、もどかしい初彼女との日々を描く「富士山さんは思春期」は、上場くんの目を通じて、富士山さんの“少女の瞬間”を見せてくれる作品なのだ。

(このレビューは第1巻時点のものです)

記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。2012年はだいたい1000冊ちょっとマンガを買ってました。Twitterアカウントは@frog88

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株式会社双葉社 | 富士山さんは思春期 1(フジヤマサンハシシュンキ) | ISBN:978-4-575-84238-8

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