10年代の人外系マンガはどう変遷したのか?——猫耳化する萌え系人外と獣人化する人外彼氏


 一般商業誌における人外マンガブームというのがいわれるようになって久しい。いわれるようになってというか、僕を含めた一部の人たちが「ブームだ」といいだしてからといった方がいいかもしれないが、アニメ放送開始を目前に控えた『モンスター娘のいる日常』(オカヤド)といったヒット作を筆頭に、いわゆる人外系が増えた、「人外系」というフレーズが定着した感はある。

 人外ブームというフレーズはやや曖昧な言葉で、単純に「人外」といった場合、妖怪や宇宙人も含まれてくる。このあたりは『うる星やつら』(高橋留美子)などを筆頭に、かなり前からマンガにおける定番設定のひとつであり、ブームという呼び方をするのはちょっと違ってくるだろう。たとえば、猫耳みたいなものや『侵略!イカ娘』(安部真弘)のイカ娘のように擬人化的であり人外であるものも多い。また、狭義の人外萌え自体も長らく地道に続いてきたジャンルだったりする。

 このあたりをどう定義づけて整理するかというのによって、人外というジャンルの歴史観は変わってくるだろうが、ここではいったん「ここ数年のいわゆる人外ブーム」にフォーカスを当てて整理しておこうと思う。「いわゆる」であり、「おおざっぱな整理」にはなるので、あくまで傾向という形にはなるが、そろそろ定番ジャンル化しつつある長さになっているので、大きな流れの指標として見てもらえればと思う。

■ケンタウロスマンガの勃興と2011年の人外元年

 近年の一般商業誌における人外系ブームの元年を考えると、やはり2011年のケンタウロスマンガのプチブームになると思う。『はたらけ、ケンタウロス!』(えすとえむ)、『セントールの悩み』(村山慶)、『竜の学校は山の上』(九井諒子)といったケンタウロスがメインキャラクターとなった作品が立て続けに刊行されたのがこの年だ。『竜の学校〜』は短編集であり、ケンタウロスの奥さんが出てくる話はそのうちのひとつではあるが、カバーでも象徴的に描かれ、帯でもケンタウロスの奥さんがフィーチャーされた。

 のちに3作共同による「ケンタウロスマンガフェア」も開催されるなど、たまたまの符号ではあると思うが、局所的ブームを形成したといえる。(翌年には『ゼウスの種』(飯島浩介)という神話キャラによるギャグも。こちらも主人公はケンタウロスだった)

 10年代の一般商業誌における人外系ブームの大きな特徴は「身体の形状自体が人間と異なっている」キャラクターにスポットが当たっている点だといえる。ケンタウロスはその典型で、体が馬だ。いわゆる擬人化であったり、妖怪などのような人外は、猫耳などオプショナルな部分で違いがあっても、大筋の見た目は人間とほぼ同じというケースが多い。10年代人外ブームは、身体構造が違うというところを入り口にした作品が最初の担い手になっている。読み味やテーマはそれぞれだが、『はたらけ〜』にせよ、『竜の学校〜』にせよ、『セントール〜』にせよ、いずれも馬の身体を持った種が社会生活を営むとはどういうことか、そこではどういう社会が築かれているかといった視点を作品に盛り込んでいる。


■『モンスター娘のいる日常』ヒットと萌え系人外のフォーマット確立

 翌2012年には『モンスター娘のいる日常』が刊行される。ラミア、ケンタウロス、ハーピーなど神話系モチーフの女性キャラクターとのハーレムラブコメだ。

 詳細なデータが手元にないが、1巻刊行直後に各所で売り切れが多発、あっという間に重版が決定。5か月後の2巻発売段階では累計20万部突破が帯に打たれている。今年3月の7巻発売時点で累計150万部。おそらく11年以降の人外ブームにおける、現時点での最大のヒット作だろう。そういう意味で、2012年は人外系のブレイクイヤーといっていい。

 「モン娘」掲載誌のコミックリュウは2011年に人外特集を含むアンソロジー「けもも」を刊行していたり、この後単眼ヒロインを主役にした『ヒトミ先生の保健室』(鮭夫)といった作品を送り出したこともあり、人外系ブームの震源地的に語られるようになる(そこに特化した雑誌ではないが)。

 ケンタウロスマンガ3作が「異種のつくりあげた社会」「異種と共存する社会」にスポットを当てていたのに対して、『モンスター娘のいる日常』は『ドラえもん』的なフレームでモンスター娘たちを描いている。つまり、社会自体は人間のそれがベースで、異種であるラミアたちはゲスト的な立場で物語に入ってくる。ここでは外形的な部分や生態そのものが異なる女の子とどのように恋愛をするかという部分にスポットが当てられることになる。

 ここでは異種である、生態が異なるということが恋愛的障害として機能するのと同時に、“特別”な外見がひとつの萌え要素として機能している。2015年刊行の人外系諸作品はこの形を踏襲しているものが多く、いわゆる人外系ブームのフォーマットが「モン娘」で確立されたといっていいだろう。ただし、コンプレックスや障害、外形的萌えポイントというギミック自体は人外系に限らず、恋愛・萌え系物語における定番装置ではあるので、人外系がフォーマットを作り上げたというより、既存のフォーマットが人外というフィールドまで拡大して成功したといった方が正確ではある。が、いずれにせよ10年代の人外系ブームはこの形を得てほぼ確立した。

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