翌2013年から2014年は人外系でいうと、人魚をモチーフにした作品が複数登場している。人魚自体はマンガでも定番モチーフのひとつなのでそれほど目新しくはないが、ざっと挙げるだけで『f人魚』(G3井田)、『深海魚のアンコさん』(犬犬)が2013年。2014年には『人魚の王子さま』(和深ゆあな)、『ももいろ人魚』(曙はる)が刊行される。2009年刊行開始の『波打際のむろみさん』(名島啓二)のヒットを受けてなのか、いずれにせよわずかな間に人魚系作品が立て続けに登場する。
そして、2013年は別のトレンドも走り出す。トドの彼氏との生活を描く『トド彼』(高嶋あがさ)、気弱なライオンサラリーマンのコメディ『ほんとにほんとにほんとにほんとにライオン田!』(石神しし)といった作品の登場だ。
2作に共通するのは男性キャラが動物であること、そして顔を含め動物であることだ。自分が動物になる(そして、続編では彼氏が狼になる)『野獣彼女』(小夏)あたりもこの系統に入るかもしれない。
いわゆる男性向け萌えジャンルでは、あくまで顔は人間型というのが基本だが、この系統では“動物型の人間”というテイストに近くなる。この流れは2015年のいくつかの作品にもつながっていく。
そして今年、2015年はこうしたいくつかの流れを受けた作品が展開されている。
『モンスター娘のいる日常』以降の萌え系としては『亜人ちゃんは語りたい』(ペトス)が好スタートを切っている。こちらはラブコメではないが、デュラハンなどやはり神話系モチーフの女の子たちをめぐる日常作品だ。雪女・ヴァンパイアなど、外形的にはほぼ人間と変わらないキャラクターが多いので、今回定義した人外系の要素は薄めで、擬人化のバリエーションに近いともいえるが、人外系ブームの流れから出てきたといっていいだろう。
『温泉街のメデューサ』(轍平)や『T-REXな彼女』(三三)などもこの系統で、外形的人外度はほどほどだが、性格や特性面をフィーチャーした萌え系といっていい。この2作に関してはメデューサ、恐竜という怖いイメージのモチーフからのギャップ萌えという側面も強い。
『T-REX〜』のジーンピクシブ系はこのほかにも、『飼い主獣人とペット女子高生』(野干ツヅラ)や『アフリカのサラリーマン』(ガム)など、コミック化第一弾ラインナップに動物・人外系が非常に多く、レーベルとして打ち出している感がある。特化レーベルではないものの、人外系の担い手レーベルのひとつにはなってきそうだ。
『トド彼』系の流れでは、『オデット ODETTE』(日当貼)が刊行開始。猫の彼氏とのデートマンガで、彼氏が動物という形が踏襲されている。前出の『飼い主獣人とペット女子高生』も形としてはこのパターンで、男性パートナーが人外系になる場合は顔まで動物化するケースが多い。おおざっぱな分類をするならば、男性向け人外系は「顔は人間ベース」、女性向け人外系は「顔を中心に人外ベース」が基本線といえるだろう。専門外のためトレンドの流れを追えなかったが、いくつかある最近の人外系BLのカバーなどを見る限り、顔含めて人外ベースという傾向はBLでも踏襲されているものが多そうだ。
2011年以降の一般商業誌における人外系ブームをざっくり振り返ると以上のような感じになるだろうか。冒頭でも触れたように、人外自体はマンガにおける定番モチーフでもあるので、本来ならもっと古典から追わなければ流れは見えてこないだろうし、2011年をブーム元年とすべきかも微妙なところだが、10年代の人外系をトレンドとしてみるならこんな形になるだろう。
2015年現在の人外系は、すでに触れたように『モンスター娘のいる日常』のフォーマットを踏襲しつつ、同時に人外としての濃度は薄まっている傾向にある。萌えの記号・特徴のひとつとして神話モチーフが用いられるようになったといった方が正確だろう。萌えのパターンが追求され、バリエーションが飽和状態に近づいた結果、新たなバリエーションとして人外というモチーフが注目されている状態のようにも見える。そういう意味では10年代の(男性向け/萌え系)人外系ブームは、猫耳的な擬人化記号の亜種が中心になっており、ピュアな意味ではすでに終わっているのかもしれない。造形的にはおそらく人間っぽいものが一般誌ではジャンルの中心になるのではないかと思う。
一方で、顔を含めた人外化が許容される男性人外系は、今後もある程度進んでいくかもな、というのが個人的な予想だ。顔の動物化は、ある意味では造形の抽象化といえる。細かなバリエーションのある「人間のイケメン」よりも、個々人の「ちょっとした好み」が小さい動物は造形的な好みの最大公約数を生みやすい。要するに猫はだいたいかわいいし、狼はだいたいかっこいい。性格や大きな方向性は動物などの種類でおおざっぱにバリエーションを付けられるし、それほど細分化が激しくない。理想の造形を読み手が託す余地が人間より大きいのではないだろうか。
顔の動物化は、同時に「不細工のマイルド化」という効果もある。『トド彼』のトドの彼氏あたりは、そういう側面を持っていたのではないかと思う。オッサン臭いキャラクターのオッサン臭さをトドという形が中和して、物語に入りやすくしてくれていた。キャラクターの特徴を生かしつつ造形の雑味を減らせるという点で、男性人外キャラクターというのは物語そのものに入りやすくするための有効なギミックのひとつとして、特に女性向けジャンルでマンガに取り込まれていくのかもしれない、というようなことを今ちょっと考えている。
あと亜人ちゃんかわいい。
記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。年間のマンガ購入量はだいたい1000冊ほど。特に好きなのはラブコメです。Twitterアカウントは@frog88。
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