「愛の才能」とは何なのか? 川本真琴と思春期のピュアネスをめぐって——「17歳℃」(麦盛なぎ)


純愛路線が花盛りになった00年代以降、中学生、高校生の恋物語は数多く描かれているが、思春期の恋模様をきちんと描く作品は、実はあまりなかったと思う。何年か前からここを描いてきたのが「溺れる花火」「ヒメゴト~十九歳の制服~」の峰浪りょうであり、近いところをめぐっているのが「惡の華」の押見修造だろう。そして、今、新たに現れたのが「17歳℃」の麦盛なぎだ。

「17歳℃」は、90年代初頭を舞台にある高校生の少年少女の恋を描いた作品だ。他人を寄せ付けない雰囲気と転校早々の暴力沙汰で危険な子といわれるようになった黒川なつきと、軽音楽部の平凡な少年・樋野。高校生の恋物語といってしまえば、確かにそうなのだけれど、この作品には青臭くて妖しい思春期の微熱感が濃厚に詰まっている。

その微熱感は、彼ら、彼女の(特に樋野の)恋が、関係性や憧れ、恋心よりも先に、情欲から始まっていることに由来している。何をするかわからない、「大きな野良猫」のような黒川に、もちろん樋野はどこかで興味を抱いていただろう。しかし、樋野が自身の気持ちを整理するよりも先に、黒川の悩ましげな表情や行為が彼を惑わせていく。そして、つき合うとかつき合わないとか以前に、お互いに恋心を抱いているかすらわからないまま、満員電車で交わされる濃厚なキス。

この2人の関係は、恋心に先行して進み、恋心自体も常に情欲と渾然一体となっているのだ。

だとすれば、この物語は現在の恋愛物語の保守本流である純愛路線と真っ向から対立するように思えるのだが、ここで面白いのが、“思春期もの”の作品は性的な衝動を出発点にしながら、ある種の強烈なピュアネスをあわせ持っている点だ。それは川本真琴の世界と似ている。

麦盛は「17歳℃」のあとがきで、「○本○琴みたいな子のマンガやりたいッス!」というのが本作の出発点であったと語っており、その言葉どおり、全5話のサブタイトルは「あいの、さいのう」から始まり、すべて川本真琴の楽曲名を引用する形になっている。

この川本真琴的というのは、ときとして「不思議ちゃん」だったり、ヒリヒリとしたセンシティブさであったり、ひと口には表現しがたいが、リアルタイムで彼女を体験した世代なら何となく漠然と共有しているイメージだろう。

そういう本人と楽曲世界が混ざり合った「川本真琴みたいな子」について、分析し尽くすのは専門外である僕には荷が重いところだけれど、その歌詞には「17歳℃」が描いている独特の思春期感が詰まっている。

たとえば、「愛の才能」で川本は「あの娘にばれずに 彼にもばれずに kissしようよ」「明日の一限までには何度もkissしようよ」と情熱的に語りながら、「愛の才能ないの」と歌う。

見方によっては、互いに恋人を持ちつつ、ほかの誰かと突っ走る、歌詞の主人公は「愛の才能」の固まりにも思える。だけど、川本はそれを否定する。おそらく、ここで彼女が「愛」と呼んでいるのは、たぶん「教科書どおりの愛」であり、大人がまともだと思うような「美しいものとしての愛」なのだ。それは、00年代の純愛路線のイデアとしての愛にも近いものだろう。

じゃあ、「川本真琴的なるもの」が単に扇情的なエロスを持ったものかというと、むしろ逆だ。「愛の才能」にせよ、川本真琴自身にせよ、そこにあるイメージは尖ったピュアネスだ。

「愛の才能」で川本は「内心 本心だなんて関係ない」と歌う。その上で「忘れらんない感触を欲しいの」「今夜奪って さらってみせて!」という。

「教科書どおりの愛」というのはいわば、順番とルールによって守られる。なぜなら、人は他人の心をそのまま覗くことはできないし、証明することもできない。さらにいえば、未来に向かって気持ちが変化しないと確約することも難しい。だからこそ人は約束し、「恋人」というフレームを作り、「ほかの人間とは違う」と証明するために行為を制限する。

「愛の才能」で歌われるのは、その約束の不確かさに気付いた女の子が「ならば、ただ今このときだけを貫こう」とする姿だ。真実であるかどうか、代替不可能かどうかという内実と無関係に、「その瞬間においては」という注釈付きでの真実の愛であり恋を求める。それが「愛の才能」の歌詞世界であり、川本真琴的なピュアネスなのだ。

「17歳℃」に流れる通低音は、そういう思春期のピュアネスだ。恋慕と情欲が混ざり合って、区別すらない興奮を、あえて「愛だ」と語らず、そのまま共有しようとする。あまりに青臭くて恥ずかしくなるけれど、思春期のほんの一瞬だけしかない、いやらしさと純真さが混ざり合った感覚は、今もう一度新鮮に映るのだ。

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[不明]


(本作は1巻完結です)

記事:小林聖
フリーライター。ネルヤ編集長。2012年はだいたい1000冊ちょっとマンガを買ってました。Twitterアカウントは@frog88

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